第1章 一歩
二年生に進級し、新しいクラスメイトにも徐々に慣れつつあったある日の事。帰りの挨拶が終わると、担任の教師に職員室への呼び出しがあった事を伝えられた。特別心当たりがあるわけでもなく、疑問を腹に抱えたまま一階へ向かう。
職員室前に着くと、白髪頭を後ろに撫で付けた頭の年配の先生が一人ぽつんと佇んでいた。その先生が私に気付き、静かに歩み寄って来た。
「立花陶子さん、だね?」
鋭い鷹の様な瞳が私をじっと見詰める。思わずビクリと肩が跳ねてしまう。
「え、はっ、はい…」
「こっちに」
微かに嗄れた声で一言そう添えると先生は歩き出した。底知れぬ緊張感が全身を巡る。指先の感覚が遠退いていく様な錯覚を覚え、無意味に手を開閉した。
保健室の隣の校舎の一角、『進路相談室』と銘打った部屋の扉に先生は手を掛けた。
「どうぞ」
言われるがままに室内へと入る。背後で扉の閉まる音がする。
その部屋には既に二人の生徒が座っていた。上履きのカラーゴムの色を見る限り、三年生が一人、私を含めた二年生が二人のようだ。
「どうぞ、適当に掛けて」
「は…はい」
生徒達の対面に座っている先生に促され、私は一つ空いている場所に腰を降ろした。手に汗が滲み、心臓がドクドクと五月蝿い。緊張するなと言うのが無理な話だ。
何故なら、私達の対面には校長先生が居るのだから。
「申し訳ないね。突然呼び出してしまって。出来れば内密に話をしたいんだよ」
校長先生はそう言うと太ももに肘を突き柔和に微笑むが、その目には一切笑いが含まれていない。
「さて、先ずは何故君達三人をここへ呼んだが話そうか」
骨の浮き出た皺だらけの手を組み直し、一つ咳払いをする。
「単刀直入に言おう。君達には───“審神者”になってもらいたい」