第2章 台所事変
蓋を開けた鍋を指差し、黙ったまま清光に中を見るよう促す。怪訝そうな表情を浮かべながらも清光は中を覗き込んだ。そして清光の表情がビシリと固まる。
「何で豚汁 緑に変色してんの……?」
清光は何かを考え込み、一度目を離し、また覗く。
「なに二度見してんの?!無駄だよ豚汁腐ってんだからよッ!!」
鍋の中身は見事変身を遂げた豚汁だった。具材も腐り始め白い胞子を生成し始めていたが、辛うじて形を成していた具材の内容から豚汁と判断出来た。
「確かに始末するの忘れてたけど こうなるとは、」
「なるよッ!来る日も来る日もこんなとこ常温で放置されてりゃそうなるよ!!知らんけど!!」
豚汁がこんな風に変化を遂げるのを未だかつて見たことがない為 私も知らないが、明らかに放置してた事が原因だろう。
「もうなんかもう…ほら~もうドロッドロじゃあんもう嫌だ~~~……」
「うっわ」
脇に置いてあったお玉で豚汁を掬ってみると、豚汁は謎の質量を持ち始め、通常の豚汁ではありえない「ドチャッ」という音を立てた。
「おかしいと思ったよ、格子窓で風は通ってるはずなのに臭いなんて…臭いの根源がここにあれば臭いよね」
「あーそうね……」
「「・・・・」」
「……主 捨てないの?」
「……いやアンタが捨てなよ」
「ヤダよ」
「私だって嫌に決まってんだろッ」
「主がやんなよ。そういう要員でしょ」
「そういう要員てのはアレか?!バラエティ番組で理不尽な扱いを受ける女芸人の立ち位置か私は!!!」
パイを顔面で受けたり、逆バンジーやったり、虫を食べたり、熱湯風呂に飛び込んだりは一切しておりませんし やりません。
お前がお前がと肘で小突き合う攻防戦が始まり、戦いは加熱した。しかし、その終幕は割と早くやって来た。肘の骨と骨がダイレクトにぶつかり合い、振動が骨まで響いて二人揃って悶絶する。あはれなり。