第2章 台所事変
屋敷の角部屋に台所はあった。台所の戸口前に立つと清光は懐を探り始め、布を二枚取り出す。
「主、これ使って」
「え?何で?」
「それは入れば分かる。良い?開けるよ?」
清光は戸を一気に引け開けた。
格子窓で釜戸がある古い作りで、日本の趣のある伝統的な光景がそこにあった。歴史好きの私としては堪らない台所なのだが、それより何より耐えれない事が一つ。
「ぎぃあ゛くっせッッ!!!!」
臭い。
鼻腔にガンと来る強烈な異臭に鼻を摘む。それでも臭気を感じる為、貰った布を押し当てる。うぐっと喉元に酸っぱい物が競り上がって来て思わず身を折る。まずい。危険過ぎる。一歩間違えればゲロリアンだ。
「臭いヤバいヤバい何これ」
「だから言ったじゃーん…布使ってって」
見ると清光は布で鼻と口元を抑えていた。顰めっ面なのはこの臭いのせいだろうか。
この台所には悪臭が充満していた。とてもじゃないがまともに嗅いでいられない。腐卵臭と腐った肉に加え、生乾きの洗濯物の臭いを足して更に掛け算したような強烈なものだ。
「何この臭い。ねぇ何これ。ふざけてんのこれ。もはや正気の沙汰とは思えない臭いなんだけど」
「何か腐ってるっぽい」
「ぽい?ぽいって何?アンタここ何回か出入りしてんでしょ?何で臭いの原因知らないの?」
「だって最近誰も料理しないし。俺もしないし…」
若干突っ張ったような言い方する清光は、親に叱られ、言い訳をする子どものようだった。しかし今は可愛いだの言ってられる状況じゃない。臭いんだ今は。
「アンタねぇ、腐ってるっぽいってことは食べ物しかないでしょ。きっとこういう鍋とかの中身がくさっ、」
「…………主?」