第1章 一歩
それから加州君は何だかんだで少し心を開いてくれたのか、沖田総司がどんな人物だったか、相棒の“大和守安定”君への不満を零したり、色々な事を話してくれた。
気怠げに素っ気なく話しているが、彼らの事を話す加州君の口調はどこか楽しげ弾んでいた。本来の彼はお喋り好きなのかもしれない。何よりも、好きなんだろうなぁ。沖田さんや大和守君のことが。
話してくれた中で知った事なのだが、加州君は お洒落に興味があるらしい。配色やらコスメに限らず、若い女子の間で流行の物にも目を光らせていた。此奴、私より女子だ。
「ホントさー、安定ってオシャレのこと分かってないんだよねー」
「ねーアレ可愛いのにねー」
「そうそう!さっすが女の子!アンタ分かってんねー」
「まぁ、一応女子だし。わはは」
私より女子力高い加州君に褒められると嬉しいね。悔しいけど可愛いよ加州君。
「そんでねー?安定が〇〇のリップの……」
再び大和守君への愚痴を語り始める加州君が自分の爪を弄っているのにふと気が付いた。
「加州君、マニキュアボロボロだよ」
「ああ、爪紅?」
「そうそれそれ」
てか爪紅って呼んでるのか。粋だな。マニキュアって言うより何かカッコいい。
加州君の爪の赤いマニキュアは所々剥がれていて、お世辞にも綺麗とは言い難いものだった。そして不自然に感じたのは、人一倍お洒落に気を使っている加州君がボロボロのネイルをそのまま放置していることだ。丁寧に櫛が通され艶を放つ髪と明らかな落差のあるネイルは違和感すらあった。
「爪、塗り直さないの?」
「もう紅残ってないから無理」
「じゃあ落としちゃった方が…」
そう言うと、彼は少し困ったように笑う。
「そうした方が可愛いのは分かってる。でも、今この本丸でまともに動くのは俺くらいだ。何かあった時に対処出来るのも俺だけ。爪紅買いに、必要以上にここを離れるのは不安でね…」