第1章 一歩
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明らかな嫌悪より、隠した部分から垣間見える嫌悪の方が心を抉るものだと思ったが、やはりどちらも嫌だなと改めて感じる。
広大な敷地の半分を占めている庭、そこに生えている大木を挑(のぞ)める手近な縁側に誘って二人で腰を掛けていた。
構図としては見栄えの良い青春の一面なんだろうが、そこには甘酸っぱさなんてものは存在していない。何故なら隣に座る彼は眉根を寄せて唇をへの字に曲げ、目一つ合わさず不機嫌さを露わにしていた。
めっちゃ嫌われてる。
初っ端から心折れそう。胃がキュウッと締め付けられるのを感じる。
訓練生時代、重度のストレスでよくゲロっていたのを何となく思い出す。以来、ストレスを感じる度に胃が萎縮にギュルギュルと蠢き嘔吐を促すようになった。暫くゲロとはおさらばしていたので、久々の感覚に懐かしさすら感じてしまう。ようゲーロー久しぶりだな。
とはいえ、今ここで腹のコイツを爆誕させるわけにはいかない。恐らく、一生掛けたとて加州君の好感度は得られないだろう。喉元まで迫っている酸っぱいそれをぐっと押し込め、加州君へと目を向ける。どれだけ冷たくあしらわれようと、怯んではいけない。胸を張るしかないのだ。
「ね、ねぇ加州君」
「…何?」
あからさま “話しかけんなブス” って顔ダナー。
「加州君の元の持ち主ってどんな人だったの?」
「何でそんなこと聞くの?」
「え、その、せっかく知り合ったんだし、加州君のこと知りたいなーって…」
「へぇ……」
加州君は値踏みするように私を睨(ね)め付ける。
懐疑。嫌悪。
彼の感情が断片的に伝心する。“何のつもりでそんな事を聞いてきたのか”、私の裏を探るような懐疑心が滲んでいた。只の世間話程度に聞いた質問ですら、彼にとっては疑うべき対象になってしまうのか。