第1章 一歩
「俺、この本丸で一番の古株。だからアンタの案内を任されて、ここで待ってたんだ」
「そ、そうだったの。ありがとう」
「別に」
加州君は冷えた声で一言そう返すと、私に背を向けた。
「じゃ、早く行こ。サッサと案内済ませたいんだよね」
「えっ、ちょっ」
「早く」
加州君は振り向きもせずスタスタと歩き出す。その突き放すような彼の背中に、不安を抱えながらも慌ててその姿を追った。
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長い外廊下を進んで行く。こじんまりした中庭があり、鹿威しが中央に構えていた。本来ならば枯山水の様な侘び寂びを携えた美しい中庭だったのだろう。
しかし、鹿威しの周囲に植えてある木々は枯れ、雑草が伸び放題にされいて全く手が施されていないのが伺えた。
辺りを見回すと、屋敷全体傷んでいるように見えた。埃が溜まっているのも気に留まったが、今しがた通り過ぎた部屋の障子は木枠が折れ紙は破れ、明らかに誰かが暴れた形跡が残っている。この本丸の闇の一部を垣間見たような気がし、気が滅入った。
私の前を行く加州君を見る。彼は私に対し明確な嫌悪感を表していた。何をされたかは知らないが、彼ら刀剣男士は前任者の審神者に不当な扱いを受けたのだ。
私達人間に深い恨みと憎しみを煮えたぎらせている。今この時、突如後ろから誰かに斬り掛かられてもおかしくない。
でも私は逃げ出さないと決めたのだ。ちゃんと彼らと向き合わなくては。どんな過去があろうと。その為にはまず、彼に歩み寄る必要がある。
「ねぇ、加州君!」
「……何?」
声を掛けると数秒程固まった。振り返ったその顔は不愉快そうに歪んでいた。そんな顔をされるだろうと覚悟はしていたがやはり“くるもの”がある。心は痛いが、グッと気持ちを強く持つ。
「少し、話しない?二人きりで」