第2章 俺の女
「返して下さい!」
声のする方向を見ると、バスケットコートに小柄な男の子を囲む男達の姿。うわあ、嫌なもの見ちゃったな。小柄な男の子のバスケットボールを奪ったであろう三人組の男達。ゲスい笑い声が私の神経を逆撫でする。あの男の子の知り合いでもないし、黙って通り過ぎたって良かった筈なのに、
「ねえ、それその子のなんでしょう?返してあげて。」
自分の性格が嫌になる。どうしてこんな面倒事に自ら首を突っ込んでしまうのか。昔からこういうのが許せないタチなのだからしょうがない。
「別に奪った訳じゃねーよ。弱い奴がコートを一人陣取ってるのが気に入らねえだけ。下手くそがコート使うなんて、コートが可哀想だろ?」
如何にも柄の悪い奴が言いそうな台詞。よく見れば彼らは近所にある中学校の制服。スポーツバックからはみ出したバスケットシューズ。嗚呼、あそこのバスケ部って柄が悪いって評判だったな。なんて事を思った。
「お姉さんが代わりに遊んでくれるなら返してやってもいいよ?」
その言葉に一瞬躊躇いが生じたが、喧嘩をするにしても三対一、私は女だし、そもそも喧嘩なんかした事ない。ならやっぱり選択肢は一つ。
「いいよ。だから返してあげて。」
その私の言葉にニヤリと笑った少年達は奪ったバスケットボールを投げ捨てると、私の肩を抱いた。近道なんてしなければ良かった。でも、私がここを通らなければ、きっとあの子はもっと嫌な思いをしたかもしれない。
肩を抱かれたまま私はその子達とバスケットコートを出た。これから私は一体どうなってしまうのか、なんてこの先の事を考えると気持ち悪くなった。