第1章 約束 × 九条天 七瀬陸
「天ちゃん、陸ちゃんは?」
「…今日から入院。」
「また…。」
あの雪の日から1年半。
夏の過酷な太陽がアスファルトをジリジリと照りつけた。
1年半の間に、陸ちゃんは入退院を何度も繰り返していた。
子どものころから続いてきた、私たち3人のバランスが崩れ始めたのはこの頃だった。
「また、発作が出たの?」
「うん、でも今回は検査だけってお母さんが言ってた。」
「そうなんだ。」
「だから、そんなに心配しなくても大丈夫。」
天は、私が不安そうな顔をすると、いつも笑顔でそう言った。
でも、きっと私より天の方が不安だったんだと思う。
「わー!七瀬と星野がまたふたりで歩いてる!」
「付き合ってんだろー?」
「うるさい!違うよ!!」
「らっぶーらぶ!らっぶーらぶ!!」
小学5年生。
そういうことでからかわれることが増えてきた。
「そうだよ。付き合ってる。」
「え?!ちょっと天ちゃん?!」
「お、おう。まじかよ…。」
「大人かよ…。」
天がそう言うと、からかって楽しんでいた男の子たちは、それ以上何も言ってこなくなった。
「ねえ、何で嘘つくの?」
「嫌だった?」
そう聞かれると、嫌ではない。
「嫌じゃなかった。」
「じゃあ、本当に付き合っちゃえばいいんだよ。」
天に言われるがまま、私と天は付き合うことになった。