第1章 約束 × 九条天 七瀬陸
「海、約束、なかったことにしてあげる。
ボク以外を、好きになってもいいんだよ。」
「天を…嫌いになったわけじゃないの。今でも好き。だけど…。」
天に対する気持ちの大きさは、変わってない。
陸ちゃんに対する気持ちが、どんどん、どんどん、大きくなってしまっただけ。
「ごめんなさい。約束、守れなくて。」
「あれは、ボクのわがままだったから。まさか、海が律儀に守ろうとしてるなんて思いもしなかったよ。」
「え?!何それ?!」
「ボクにも、新しい恋人くらいいるから。さっさと陸とくっついちゃえばいいよ。」
「天は、やっぱり優しいね。」
「何それ。」
天は不機嫌そうに顔を曇らせた。
天はいつも、そうやって私に気を使わせないようにしてたよね。
「じゃあ、ボクは帰るよ。でも、陸のこと、ちゃんと見ててね。
昔みたいに、ボクは陸の面倒ばかり見れないんだから。」
「無理しそうになったら、ちゃんとストップかけるよ。だから、大丈夫。」
「そう。海がそう言うなら安心だ。」
そう言った天の顔は、テレビで見る顔でも、冷たい無機質な顔でもなく、あの頃の優しい七瀬天の顔だった。