第1章 約束 × 九条天 七瀬陸
季節はめぐり、小学校卒業間近となったころ、天が家を尋ねてきた。
「もうすぐ、中学校だよね~。天と同じクラスになれるかなー?」
「海、聞いて。」
「何?」
「別れてほしい。」
青天の霹靂とはまさにこのこと。
「え?!いやだ。何で?!」
「ボクは、遠くに引っ越さないといけないんだ。」
「え?陸ちゃんの病気のことで?療養…?」
「ううん。関係ない。引っ越すのは、僕だけだから。」
天が何を言ってるのか、わからなかった。
「嫌だよ。嫌だ。別れたくないよ。」
「海、いい子だから。お願い。」
大泣きする私の頭を天はなでた。
何度も、何度も、説得されて、とうとう私は首を縦に振った。
「ボクがいなくなったら、陸のこと、ちゃんと見ててあげて。絶対、無茶なことするから。」
「わかった。」
ずっと泣いていて、天の顔を見ていなかった私は、天の顔を見て驚いた。
「泣いてるの?」
「うん。」
「天、好きだよ。」
「ボクもだよ。
…ねえ、海、もうひとつ、約束。」
「何?」
「ボク以外の人と、何をしてもいい。手をつないだり、キスをしたり…何をしてもいい。だけど、ボク以外の誰のことも好きにはならないで。」
頭のいい天だもの。
きっと、これがただのわがままだとわかって言っていたはず。
「ボクも、海以外の人のことを好きにはならないから。」
「…わかった。」
涙でくしゃくしゃの顔を見合わせ抱きしめあう。
そして、自然と、唇が触れ合った。
天との、最初で最後のキスだった。