第5章 イケメンの顔よりブスの顔のほうが覚えやすい
半分本気にしてなかったけど、また、晋助さんに会えた。
最初に会ってから一週間後のこと、かぶき町をプラプラしてたら、突然呼び止められた。
私を呼び止めたのは10代半ばの男子で、ある料亭で待っていると伝えてくれと言われたらしい。
直感で、晋助さんだと思った。
その料亭に向かうと、いかにも高級という名が似合いそうな風貌で入るのに腰が引けた。
勇気を振り絞って入ってみると綺麗な女将さんなどが沢山いて、お待ちしておりました、と出迎えてくれた。
案内された座敷に入ると思った通り晋助さんがいた。
「指名手配犯がこんな所にいていいんですか?」
「いいんだよ、捕まらなきゃ」
なるほど、分からない。
晋助さんの向かいに座り、おしぼりで手を拭いていると、女中さんたちが様々な料理を運んできてくれた。
どれもこれも見たことも、名前も分からないような料理ばかりだった。
「あの...晋助さん。このお料理のお値段はいくらくらいなんでしょうか?」
私が聞くと、晋助さんはどうってことないって感じで答えてくれた。
そんな高い料理があってたまるか!
「美味しい料理を食べられることは本当に嬉しいです。ありがとうございます。
でも、これじゃ、晋助さんのためになってないです。私のお礼になってないです。
だから、料金ぐらい私が払います」
財布の中にある金額を思い出す。
ちょっと、ていうかかなりヤバイかもしれない。
「いいんだよ。俺が払うっつってんだから払わせろ。
それに、綺麗な女とうめェ飯があれば俺は嬉しいぜ」
そう、綺麗な顔で、いたずらっ子みたいな笑みを見せる。
せこい。ずるい。やめて欲しい。
やっぱりイケメンはダメだ。心臓に悪い。
「いただきます」
なんだか恥ずかしくて急いで口に料理を運ぶ。
「美味しい...!」
「だろ?俺が気に入ってる店の一つだ。」
「はい、初めてこんなに美味しい料理を食べました」
「そうか、それは良かった」
晋助さんは優しい顔をする。
こんな顔も出来るんだ、と思って思わずじっ、と見つめてしまった。
「...俺の顔になにか付いてたか?」
「い、いえ、何も!」
ご飯、美味しい。
晋助さんのことを出来るだけ頭から追いやるようにしてご飯に集中する。