第5章 イケメンの顔よりブスの顔のほうが覚えやすい
何か思いついたのか、横目で私のほうを見る。
「礼と言っちゃなんだが、『鬼兵隊』に入ってくれねェか?」
「え?」
鬼兵隊?なんだそれ。
「俺が作った攘夷集団だよ。俺ァずっとオメーみたいなの求めててな。
精神的にも強くて、多分武術とかも出来るほうだろ。
じゃなきゃ護身用の短刀とかも持ち歩かねェさ。」
短刀に気づかれていたとはビックリ。
動揺して、懐にある短刀を思わずなぞる。
「少ねーが女もいる。金もある。
どうだ、入る気になったか?俺が自ら勧誘するなんてよっぽどのことだ。」
そんなに期待されちゃ、答えにくい。
こういうのが上手い人だな。せこい。
でも、私の中で答えはもう決まってる。
「すみません、私が断れる立場じゃないんですけど、お断りさせていただきます」
「ほう...なんでだ」
「私は攘夷とか佐幕とかにとことん興味がなくて、そんな状況で急にやれって言われても無理ですし。
それに、私はお金もきちんと持っているので、そういう条件にはそそられません」
晋助さんはなにか面白そうなことがあるような、なんだかワクワクしてるような顔をした。
「ま、いいさ。今回のは断れるのを承知で言ったことだからな」
なんだ、本気じゃなかったのか。
私が少しでも真剣に考えたのに。
「もう一つ、考えてあるんだが、聞いてくれるか?」
「もちろんです」
「今後も、何回か俺に会ってくれるか?」
「へ?」
まさか、そんな礼の仕方があるなんてビックリで間抜けな声が出る。
「そんな事でいいんですか?
もっと他にその...一週間言うことを聞くとか...」
「なんだ、俺の奴隷にでもなりたかったのか?」
「違います!」
だろうな、と晋助さんは笑う。
なんかいちいち仕草がかっこよくて、ムカムカする。
「そうじゃなくて、本当にそんなのでいいんですか?」
「いいんだよ。俺が言ってるんだから。」
それもそうだが。
「そういえば、お前の名前はなんだ?」
「佐藤ちかです」
「分かった。覚えておく。」
そう言って晋助さんはまた会おう、と言って勘定用のお金だけ置いていき、店を出ていった。
なんだか、嵐みたいな人だったな。
心の中で、あの人にまた会いたくなってる気持ちを少し、抑える。