第5章 イケメンの顔よりブスの顔のほうが覚えやすい
「おれァな!ホントに感謝してんだよ、な、“荒彩”。
こんなべっぴんさんに助けてもらってさァ、有難いのなんのって。」
そう言って私の肩を抱く。
「あの、離してくれませんかっ?ちょっと...」
「あ?いいじゃねェか肩ぐらい、減るもんじゃないし。
どうせオメーもどっかの男とパコパコしてんだろ?オッサンに肩ぐれー貸してくれよォ!」
「は?」
してる訳ない。
私の純潔なめんな。
太ももを着物ごしに触ってくる手にぞわぞわする。
「早くお金返してください。もう帰ります。」
「ちょっと待てって!金返すついでにさ、一発ヤラしてくれよー、一発に限らなくてもいいけど。」
「え、は?」
「荒彩の顔見てからさー、どうしても頭の中でオメーの顔がチラついてね、もう何回もヌいちゃったわけ。
そんな健気なオッサンに一発ぐらいどうってことないだろォ?」
居酒屋の親父さんはこんな時に限って奥に引っ込んでる。本当に何してんだ。
手を振り払って帰ろうとすると、二の腕を力強く掴んできた。
「ほんっっとうに離し――――――」
「オイ、離せ。」
横からいきなり声が聞こえる。
いつの間にか、座っていた女の人の姿は無く、隣に立っていた。
違う女の人じゃない。男だ。女物の着物を着てるから女かと思った。
その男の人は刀をオジさんの首に当ててる。
ビックリしてオジさんの顔は引きつってる。
「オイ、離せっつってんのが聞こえねーのか。斬るぞ。」
「う、うわァァァアア!!」
オジさんは斬るという言葉に怖気づき、私の腕を離して居酒屋から急いで出ていく。
「あ、あの、ありがとうございます」
「あ?どうってことねーよこのくらい。」
そう言って、男の人は私の方を見る。
思わず息を飲む。
艶のある黒髪に、突き刺すような、けど形の綺麗な眼。
頭と左目は包帯で巻かれ、左目を前髪で隠している。
まさに綺麗な顔のお手本みたいな顔だった。
展示会とかにあるような。
けど、どこかで見たことがあるような顔。
必死で頭の中で記憶を探り出す。