第3章 痛みと引き換えに
「トーカ、ウタくんの店に案内してあげたら?明日、休みでしょう」
「え。なんで私が」
「センパイ、だからな」
ウタさん。初めて聞く名だ。
マスクを作る喰種なんだろうか。
考えていると、トーカさんの鋭い視線がこちらに刺さっていた。
「時間厳守だからな」
「…はい」
その日は時間厳守と僕が言われたにも関わらず、
トーカさんが30分も遅刻だった。
遅刻していますよ、なんて僕が言える立場でもないから
黙っていたけど…
細い路地を進んだ先、『HySy』と書かれた看板が目に入った。
なんてよむのかな。
店はここだという。
「おじゃまします…」
「ウタさーん。いますかー?」
「…あれ、トーカさんこの前新調したよね?」
「いや、今日は私じゃなくてこれです」
様々なマスクが並ぶ壁、異質な雰囲気を放つ一室の奥に彼はいた。
キャンバスに向かって何か書いていて、
喰種の証である紅い瞳は隠すことなく晒されている。
なんとなく怖い見た目ではある。
「は…はじめまして、リオといいます。あんていくの新人です」
「こいつのを作ってやってください」
「うん、リオくんね。新人さんか…カネキくん以来だね」
「…カネキ…?」
「……………」
「さ、採寸しよう。座ってリオくん」
「…はい」
一瞬、トーカさんの表情が切なく見えた。
カネキ、という人がいたんだろうか。