第3章 痛みと引き換えに
やがて、芳村さんに連れられ二階あんていく店内に入る。
コーヒーの香る質素な店内には、何人か人がいた。
店員の格好をした人達の視線が僕に注がれる。
「……」
「それじゃあ、皆に挨拶してくれるかな」
「リ…リオです。名字はありません。よろしくお願いします」
簡単に挨拶し頭を下げる。
店員の人は特に何も反応せず、顔を見合わせた。
「…店長、また子犬みたいに拾ってきて。
ここ迷子センターじゃないんですから」
「まあまあ、芳村さんは昔からそういうところがあるから」
前にも、僕のように助けられた人がいたんだろうか。
芳村さんは、黒髪で片眼が隠れた少女に目を向ける。
「こちらはトーカちゃんだよ。年も近いだろうから、よろしくね」
「よろしくお願いします」
「…ん」
ちらりと目を向けられたかと思うと、
素っ気ない態度をとられてしまった。
続いて、金髪の人が話し出す。
「店の事はお任せあれ。何でも聞いてくれよ、リオくん?」
「彼は古間くん。店でも一番の古株だよ。いろいろ聞くといい」
芳村さんも信頼しているのだろう。
それにしても、変わった髪型をする人もいるんだ。
「彼女は入見カヤ。カヤちゃんも経験豊富だから、たくさん教えてもらってね」
長い黒髪の、器用そうな人だ。
長くここにいた方なんだろう。
「それで、こちらが西尾錦くん」
「…ッス」
跳ねた茶髪の、眼鏡を掛けた人。
彼もまた、芳村さんに救われたんだろうか。
「彼は大学に通っているから、
ヒトの世界の事や勉強に興味があれば教えてくれるかもしれない」
「は?誰がそんなクソめんどいことするかよ」
…言葉使いが悪い人だ。
「クソとか言うな新人がマネするだろクソニシキ」
「うるせクソトーカ」
…ふたりはいつもこんな感じなんだろうか。
さ、と芳村さんは息をつき、
「私はやることがあるから、リオくんにいろいろ教えてあげてね」
そう言い残して店をでてしまった。
どうしよう、と辺りを見回していると、声を掛けられた。
「おい」トーカさんだ。
「…はい」
「色々教えてやるからついてこい」