第3章 痛みと引き換えに
好き。
いやいやいやいやいやいやいや、
え?
すき…すき。
好き?
好きの意味すらちゃんと理解し難い私はひどく混乱した。
だって好きって、
あの好きだよね。
あの、男の人と女の人の。
やばい。
頭が沸騰したみたいに熱い。
なんだこれ。
「…い…いや…いいい意味わかんない……」
「えー嘘だー。一緒にいたいなんて明らかに好きな人に言うセリフじゃん」
「…そうなんかい………」
変なにやけ笑いを止めないままイトリさんはグラスを回す。
いや、わからない。
何もかも。
好きってなんなのか、
友達の好きと恋人の好きはどう違うのか、
なんで一緒にいたいは恋人なのか、
なんでリオなのか、
好きってなんなのか。
頭はぐるぐると必死に回転する。
「動揺してるね、やっぱり好きなのか」
「ちょっ待ちましょう落ち着こう」
「うんまず柚葉、君が落ち着け」
焦る。
よくわからないが焦りは募る。
「好きは、どういった感覚なんでしょう」
「うーん。簡潔に言えば、人が愛しくてたまらなくなる。
何より失いたくなくて、自分の心はその人のものになる」
「…なにより」
「でもきっと簡潔には表せないね。
やっぱり恋は、しないと分からない」
恋、か。
「私にもできますかね」
しないと分からない、か。
「…楽しみだよ、柚葉の恋」
言葉で語り切れない壮大な夢みたいな話。
さっきまでの焦りは嘘みたいに収まっていて、
微かな高揚が胸に広がった。
リオに恋をしたかはわからない。
でもいつか出来るんだろうか。
血にまみれたこんな世界にもある、
色褪せない様な恋。