第2章 脱獄者
2つの真っ白なカップに注がれた、黒とも茶とも言えるような色。
鼻を利かすと、独特な香りがする。
「のんでいいよ。あ、あついからきをつけてね」
柚葉はそれを僕と兄さんの前に差し出す。
言われた通りカップの側面からほんのり熱く、湯気がもくもくと立っている。
2、3回冷ましてから、恐る恐る口をつけた。
「………おいしい」
「おいしい?ほんとにっ!?アズサさんは!?」
「ゎ…すごく美味しいよ、柚葉っ、お店で教えてもらったの?」
「うん。イトリさんがね、あんたはちざけだめだから、
これでがまんしてって。わたしちのほうがいいんだけど」
「はは、まだ一応未成年だからね」
二人が談笑する間に、僕は一人柚葉が淹れた
コーヒーに映る自分の顔を見つめていた。
黒い液体に浮かんだ僕自身は、なんともいい難い顔をしていた。
感動しているような、びっくりしているような顔。
心から広がってくる確かなあたたかさに、
コーヒーひとつで、しあわせを覚えたんだと思う。
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少しの回想に耽っていた頃には、
目の前に芳村さんが置いたソーサーとカップがあった。
前見ていたのと同じ様な、綺麗に磨かれた白のカップ。
柚葉も待ってましたと言わんばかりにカップを見つめる。
「さ、召し上がれ」 芳村さんが微笑んだと同時に、
「いただきます」を言って飲む。
僕ら喰種には丁度いい苦味。
おいしい。
「すごく、美味しかったです」
「うん。私も久しぶりに飲めてすごい良かったです」
芳村さんは嬉しそうに頷いただけだった。