第2章 脱獄者
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僕がその味を知ったのは、
僕と兄さんと柚葉が知り合ってすぐだった。
柚葉とは短い付き合いではない。
正確に何歳だったか覚えてないが、9,10年くらい前だろう。
打ち解けていった僕らは、次第に話すことも増えていった。
たくさんの世界を教えてくれた柚葉が
僕らにその味を教えてくれたのも、丁度それくらいだった。
僕と兄さんがコーヒを知らないと聞いて、
柚葉はすごく驚いていた事と、
ヒトの肉と水以外に食べられるものを初めて知ったのと、
あたたかいそれにじんわりと心が満ちていく感覚は、
今でもよく覚えている。
肉をいい食べ物ではないんだろうな、
と感じ始めた頃に、久しぶりにおいしいと思えた。
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「ぇ、えぇっ、リオたちはコーヒーしらないの?!」
「…?にいさんしってる?」
「ごめん、初めて聞いたよ。よくわかんないなぁ」
珍しく僕より人の事を知っている兄さんが、
眉を下げて苦笑する。
「…ふーん。じゃあわたしがつくってあげる。
ちょっとまってね、すっごくいれるのうまくなったんだよ!」
「…きっと飲み物、なんだろうね。楽しみだね、リオ」
「…うん」
その時の僕は、森を軽やかに抜けていく柚葉をぽけっと見ているだけだった。
やがて、リュックを抱えて柚葉が戻ってきた。
嬉しそうにしてリュックからコーヒーセットを出していき、
かちゃかちゃと組み立てていく。
組み立てる小さな手はずいぶん小慣れていて、
でも慎重に、作業を進めていった。
最後に、お湯を“の”型に注ぐ。
しばらくすると、
「はい、できました」
それは出来上がっていた。