第2章 脱獄者
「柚葉ちゃんから聞いたよ。…柚葉ちゃんはともかく、
どうしてリオくんは囚われていたんだい?」
僕の横にいる柚葉の肩がぴくりと跳ねたが、気のせいだろうか。
うん、気のせいだろう。
「(なんだろう普段優しい人に言われるとすごく心にくる)」
「…実は、」
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「…そうか。それでジェイルという喰種を探しているんだね」
「はい。聞き覚え、ありませんか」
「残念だが、私には分からない」
「…キジマは、ジェイルだと思われてる
僕と兄を交換してもいい、とまで言っていました。」
「僕は、兄さんを助けたい」
「…しかし、コクリアから助け出すのはとても難しい。
今回の出来事は、歴史的に見ても非常に稀有だ」
確かに、まともなやり方では無理だ。
でも、キジマのジェイルに対する異常なまでの執着、
あれを利用すれば。
「さっき言ったように、キジマはジェイルだと思っている
僕と兄を交換する、と言いました。
…だから、本当のジェイルを捕まえて
キジマに突きだせばいいんじゃないかって、思うんです。」
芳村さんは、難しそうな顔をする。
「捜査官との、“取引”になる訳か…しかし話を聞いたところ、
それは凶悪な喰種なんだろう?捕まえるのに苦労しそうだが____」
「…それでも僕は……」
拳にぎゅっと力が入る。
身を挺して僕を守ってくれた兄は、
今も冷たい部屋に閉ざされ苦しんでいる。
僕の唯一の兄弟。
兄さんに守られてばかりは嫌だ。
助けたい、否、助けないといけない。
「…なら、私たちも力を貸そう」
「……え、?」
「見捨てるつもりなら、最初から助けたりしないよ」
「…!」
一瞬本気かどうか疑ったが、彼の表情に偽りの色は見られない。
疑った自分が恥ずかしくなるくらい、その笑みは優しかった。
慌てて柚葉を振り返ると、
何も言わずに、まるで当然だと言いたげに小さく笑った。
「本当に、ありがとうございます…!!」
「できる範囲で、になってしまうけどね」
「いえ、本当に助かります」
喰種の中でこんなに優しくしてくれる人は、
僕の中では柚葉しか知らなかった。