第8章 お茶をどうぞ、お嬢様〜執事松〜
「どーやって殺すチョロ松にーさーん?」
「待て十四松。下手に動いて主様に怪我でもさせたらどうすんだ!」
緊迫した空気の中、イヤミは醜悪な笑みを浮かべながら、ポケットからケータイを取り出してそのまま通話を始めた。
「ミーザンス。上手くいったザンス!手筈通りによろしくザンス!」
電話を切ったタイミングで、窓の外から轟音が聞こえてきた。
「あんた、なに企んでんの!?」
「ウッヒョッヒョ!なにって、正々堂々とチミを攫うだけザンス!そして萎の頭公園でスワンボートを漕ぐというデートプランザンス!」
イヤミが勢いよく窓を開けると、遥か頭上からヘリコプターが近づいてきた。ヘリからは梯子が下がっている。
なにあれ?まさかあれで私を無理やり連れて行く気!?
「やめるんだイヤミ!!」
カラ松がエアガンの銃口をイヤミに向けた刹那、
「そうはさせないザンス!」
イヤミは隠し持っていた煙幕を投げつけた。
「キャーーッ!?」
「主様ーー!!」
みんなの声が飛び交う中、もくもくと煙が巻き起こり視界が灰色に包まれる。
私はイヤミから逃れようと必死に抵抗するけど、やっぱり男の力には敵わず窓際まで連れて行かれてしまう。
「嫌ー!!離してよ!なにが伯爵よ!伯爵の大した意味分かってなくて雰囲気だけで名乗ってるくせに!」
「やかましい小娘ザンス!いいから黙ってミーについてくるザンス!」
ヘリが屋敷すれすれをホバリングし、書斎にけたたましいプロペラ音と風が舞い込んだ。イヤミが窓から梯子に向かい手を伸ばす。
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ!
こんな奴とスワンボート漕いでるの友達に見られたら一生ネタにされる!
(助けて……おそ松!)
祈りながら硬く目をつぶった。
あれ?なんで今、私はおそ松の名を呼んだんだろう?