第8章 お茶をどうぞ、お嬢様〜執事松〜
「シェーーーーッ!!」
イヤミが十四松の言葉に驚愕して叫び声を上げた瞬間、見えない力によりロープが切れて、お父様が子供の頃流行ったというシェーのポーズをした。
「ん?やったザンス!ミーのシェーにかかればこんな紐お茶の子さいさいザンス!」
身体の自由を取り戻したイヤミから庇うように、一松が私に背中を向ける。
「チッ、おい十四松、早くロープ持ってきて。その間おれがコイツを食い止める」
「そうはいかないザンス!こうなれば奥の手ザンス!」
身構えた時にはもう遅かった。
目が合うと、イヤミは一松の横をすり抜けて私を後ろ手で拘束する。
「キャーーッ!」
「っ!!お嬢様!」
一松の手が私の肩をかすめ離れていく。
「ウッヒョー!はい捕獲!」
「なによ!離しなさい!臭い!気持ち悪い!不愉快!」
「チミはホントにじゃじゃ馬ザンスね!そんなところもキュートザンス!」
一瞬のうちに、私はイヤミに捕らえられてしまった。
「どうしました主様……って、なんでイヤミがここに!?」
「チョロ松…みんな!」
私の悲鳴を聞きつけたのか、カラ松、チョロ松とトド松も部屋へ駆けつける。
「フン、か弱いガールを人質とは穏やかじゃないな」
「なんザンス?下僕共大集合ザンスか?」
鼻で笑うイヤミに向かい、トド松がビシィッと指を突きつけた。
「おいこの腐れ外道!ボク達のお嬢様になにしてんだよ!目には目を出っ歯にはクズを!いっけーーにーさんたちーーー!!」
「言われなくても!つーかトド松お前も戦え!」
「力を合わせるぞ!ブラザー!」
いつの間に武装したのか、みんな武器を手にイヤミと対峙している。
カラ松はピストル(おそらくエアガン)、チョロ松はボーガン(お父様の部屋に飾ってあった)、一松はダイナマイト(出どころ不明)、十四松は釘バット(庭でよく素振りしている)、トド松は家宝の剣(ちゃっかりくすねそうな気がする)。
「おおっと動くなザンス。それ以上近づいたら、主のスベスベでなんかいい匂いがする肌に傷が付くザンスよ」
「ぃ、いや…っ」
鋭利な切っ先、というか出っ歯が首筋に向けられ息を呑んだ。
絶対の絶対に嫌だ。
出っ歯の餌食にだけはなりたくない。