第8章 お茶をどうぞ、お嬢様〜執事松〜
十四松は黒いメイド服を着て短い髪をふたつ結びにしている。
なぜ彼がメイド服なのかというと、6着手配した執事服が手違いで1着だけメイド服だったのである。
男にメイド姿をさせるのはいかがなものかとは思ったけど、本人は思いの外気に入ってるし、可愛いから屋敷内でも評判だったりする。
十四松は何かを肩に担ぎながら、ニッカリ笑っている。
「どうしたの十四松?昼食までまだ時間はあるのに」
「えっとねー、なんかいました!!」
開きっぱなしの口でそう言うと、肩に担いでいた荷物をドサリと私の前へ置いた。
縄でぐるぐるに縛られたそれを見て、血の気がサァッと引く。
「消し炭にしなさい」
「かしこまりました!」
「シェーーーーッ!!??台詞も無いまま燃やされたくないザンス!!」
自称伯爵のイヤミは、芋虫のように這いずって私の足下までやって来た。
「ウッヒョッヒョ!やっと会えたザンス主!」
「キャア!?」
芋虫が飛び跳ねて私に襲いかかると、
「シェッ!?」
すかさず一松が虫ケラの顔面に足跡をつけた。
崩れ落ちるイヤミを一松は黒い笑顔で見下げる。
「燃やしてる時、悲鳴が何秒もつか測ろう…あとは、アレとアレもああして——」
末恐ろしい独り言をぶつくさ呟きながら、イヤミの足を持ってドアへと向かう一松。
主人の言いつけを守る優秀な執事を持って私は誇りに思います。
「おい!待つザンス!せめて主と話だけでもさせてチョーよ!!」
「私はあなたと顔を合わすことはおろか会話する気なんて1ミリもありません。早急に警察へと突き出します」
引きずられながらもイヤミは懇願する。
「誤解ザンス!話を聞いてチョーよ!不法侵入する気なんて全くなかったザンス!度重なるアポイントメントキャンセルに傷心しきったミーは、門の前でドラム缶に隠れて双眼鏡で主を見てただけザンス!それを勝手に運び込まれただけなのに何が悪いザンスかーーッ!?」
「なにのぞき行為を自白してんのよ!変態!」
「燃やしたら出っ歯だけ残んのかなー?」
十四松が無邪気に戦慄の言葉を吐いた時、事件は起きた。