第1章 家庭教師〜チョロ松〜
「ねぇ、僕だって嬉しかったんだよ。こうしてまた話せるようになって。それに…」
「それに?」
「久しぶりに会ったら、こんなに大人っぽくなっててさ。見間違えかと思ったくらいびっくりしたんだ」
髪を撫でられ耳にかけられる。顔は赤いけれど、瞳の奥は優しさが溢れている。
私は優しいお兄ちゃんが大好きだ。
だけど、それだけじゃ嫌だ。もっといろんなお兄ちゃんが知りたい。
「じゃあ、見た目だけじゃなく大人にして」
「えぇっ!?そそそれって…!!」
「全部言わせるつもり?」
「…ごめん。でも、僕でいいの?初めての…かれ——」
また途中で黙っちゃった。冗談で童貞って言ったのに、あがり症なお兄ちゃんは本当に童貞なのかもしれない。
「いいよ。だって、大好きな人だから…」
「っ!!」
恥ずかしさを堪えておでこをそっとくっつけた。
「僕も…好きだった。子供の頃から…。でもずっと言えずじまいで…。まさかこうして二人きりになれるなんて」
お兄ちゃんの顔をこんなに近くで見たのは初めてだった。ほんの僅か唇が重なり、そしてすぐ離れる。
「だっこ…」
「はいはい」
背中に手が回されふわりと抱きしめられる。
あぁついに、ついに私の初体験を大好きな人と…!
と思ったのに。
「ほら、休憩お終い。鼻血止まったし、日本史やろう」
チョロ松お兄ちゃんは私を起き上がらせ、日本史の教科書の付箋を貼ったページを開いた。