第6章 さよなら14番〜カラ松〜
沈黙はおよそ5分ほど続いた。
「——ええと、つまり私に気を取られているうちに、14番くんが脱走したって言いたいんですか?」
「……そうだ」
キュッと口を結んで恥ずかしそうに頷かれてしまえば、こちらも照れざるを得ない。
「爆音がして駆け足で向かった時には、もうそこにアイニー14番はいなかったんだ」
「そうですか。それは…すみませんでした」
「え?あ、あぁ」
私が謝ると思っていなかったのか、意表を突かれたように目を見開いている。
かと思えば、髪を掻き上げすぐにカッコつけだした。
「フッ、素直になったからって、簡単に許すほどオレは甘くない。罪を犯したのならばそれ相応の処罰が必要だ。分かるな?」
「そんな…!寝言が罪だって言うんですか!!」
「当然だ。寝言という高度なハニートラップを駆使して14番に加担し、このオレの心をかき乱したんだ。立派な公務執行妨害だろう?」
「理不尽です!納得出来ませんっ!」
「看守に向かってなんだその口の聞き方は?」
「っ!!」
ヒンヤリとした警棒で肩を撫でられ、背中にじわりと冷や汗をかく。私は恐怖から押し黙った。
「……」
「そうだ。それでいい」
怯える私を見て、松野看守は愉しげに笑みをこぼすと、ジャケットを脱ぎ捨て黒いネクタイに手をかけた。
「…松野看守…?」
「15番。これは、君を正しい道へと導き更生させるという、オレに課せられた使命、そして愛の鞭だ」
「っ…な、何を言って……んんっ!?」
シュルシュルとネクタイをほどくと、松野看守はネクタイで器用に私の口を塞ぐ。
「悪い子にはたっぷりお仕置きしてやらないとな?」
声が出せず、ふるふると首を横に振ることしか出来ない。
恐怖で目に涙を浮かべれば、警棒で顎をクイっと上げられた。
「覚悟しろ?オレだけの15番…」
目の前の男は、もういつもの優しくてイタくてどこか天然な看守ではない。
狂気を孕んだその瞳に、私の心はいともたやすく堕ちて行った…。