第6章 さよなら14番〜カラ松〜
「じゅうごばぁん?随分と威勢がいいじゃないかじゅうごばぁぁん!こうなれば力ずくで吐かせてやる!」
「ですからっ、私は何も知りませんっ!」
「フフーン!"何も"ではないだろう?さっき君は14番のマミーズバースデーを知っていたじゃないか!バースデーを祝いたいから脱走を手伝ってくれと頼まれたんだな?そうだ、そうに違いないっ!現に君は昨夜オレの邪魔をした!」
「え?消灯後すぐに寝たんですけど?」
悔しくてキッと睨み返す。
私ほど真面目な囚人はいないのに!
だって、松野看守の朝のポエムが聞きたくて、毎朝誰よりも早起きしてるもん。
「あぁ。よほど疲れていたんだろう。確かに君はいびきをかいて寝ていたさ。それはそれはやかましかったとも」
「なっ!?」
知らなかった…。私、いびきかいてたんだ。
恥ずかしさに顔が上気し頬が紅潮すると、松野看守は満足気に口角を上げた。ぐいっと顔を近づけ、私の目を挑発的に覗き込む。
「どうした?恥ずかしいのか?なぁに恥じることはない。実に愛らしいいびきだったぞ?君のいびきのランクは5段階あって、昨日はランク4だった。相当疲れが溜まってると見たオレは、心配になりその寝顔を覗きに行ったんだ」
「怖いんですけど!!??」
勝手にいびきをランク付けされるとか、たまったもんじゃない。
密かに素敵だと思っていた自分が馬鹿みたいだ。ナルシストなのは前から知ってたけど、こんなサイコな一面があるなんて…。
と、松野看守のペースに飲まれてる場合じゃない。14番くんの脱走に一切関与してないんだから、ちゃんと主張しないと。
私は噛み付くように声を荒らげた。
「いい加減にしてくださいっ!いびきかいてたなら寝てたのは一目瞭然じゃないですか!松野看守の邪魔なんか出来るわけないっ!!」
「いいや、君は大変なことをしでかしてくれた」
そこまで言うと、なぜか松野看守は伏し目がちになり、消え入りそうな声で呟いた。
「だって、き、君は…呼んだじゃないか…」
「はい?だから寝てたって何度も」
「……寝言で……オレの名を……」
「……」