第12章 ※くすり〜トド松〜
惚れ薬による悪夢の日々は1週間続いた。
兄さん達の"びっくりするほどのラブアプローチ"は昼夜問わずボクに襲いかかった。
ごはんの時も、家でダラダラする時も、釣りする時も、パチンコに行く時も、常にボクの取り合いで気が休まる暇なんてなかった。
夜なんて同じ布団で寝れたもんじゃなくて、トイレに鍵かけて寝たら(このボクが深夜にトイレで寝るというのがどれほど追い詰められた状況だったのか察して欲しい)、便器から奴らの手が伸びて引きずり込まれるクソ恐ろしい悪夢にうなされた。
現実も夢の中も悪夢。
正に生き地獄。
いや、下手したら本物の地獄の方がマシかもしれない。
ボクは思った。
クソニート共に言い寄られるのはこんなにも苦痛なのかと。
トト子ちゃん、ゴメン。真人間がボクだけで。
ま、今はこうして惚れ薬の呪縛から解き放たれ、1人静かにソファーで寛いでいるんだけどね。
「んーーっ」
雑誌を読み終わり、ぐーーっと伸びをする。本棚に戻そうとソファーから立ち上がった時、茶色い瓶が転がっているのが目に入った。
全ての元凶となった忌々しい小瓶。
見ただけで吐き気がする。
兄さん達には効果絶大だったのに、なんで主ちゃんには効かなかったんだろう。
まさかデカパン、BL仕様とかにしてないよね?
あの日主ちゃんに送ったラインは案の定既読スルー。
1週間も放置されてたらもう脈ナシ確定。
ボクの童貞はいつまで延長するんだ。
と、感傷にふけっていたらのそのそと猫松がやってきた。
「あれ?いたの一松兄さん?」
「いた」
「暇だしパチンコ行く?」
「無理。金ない」
「ないなら増やせばいいじゃん」
「だから、ゼロなんだって。増えようがない」
「じゃあ一松兄さんにはいつもお世話になってるから、特別に1000円貸してあげる」
実は惚れ薬が効いているうちに、兄さん達から金銭を巻き上げてちょっぴりお金持ちだったりする。
え?いくらって?やだなぁホントにちょっとだよ?金額は内緒。
「利子は?」
「そんなのないよ」
「マジか!お前太っ腹だな!」
「でしょ?だから行こ?おねがーい」
1人でいたら主ちゃんを想い出して切なくなっちゃうから、一松兄さんで暇つぶしだ。