第12章 ※くすり〜トド松〜
その後、お金の次は運がないとかほざく一松兄さんを10分かけて説得した。
「…そんなに行きたいなら付き合ってやるけど、お腹痛いからトイレ行ってくる」
「はーい」
一松兄さんを待ちながら、玄関でスニーカーを履いていると、突然ポケットが震えた。
着信画面を見て飛びつくように電話に出る。
「主ちゃん!」
「もしもし、今話せる?」
「うん!」
また主ちゃんの声が聞けるなんて!トッティ感激!
「ごめんっ!この前はほんっとーにごめん!」
「私も帰っちゃってごめんね」
「怒ってるかと思ったよ。だって——」
この間の出来事を精一杯詫びてから、趣味の話や流行りのファッションで会話を盛り上げる。少しでも長く話せるよう、話題が尽きぬよう。
だけど、なかなかデートに誘えない。
失敗を恐れて臆病になってしまう。
話すネタもそろそろ尽きてきた。
もうすぐ声が聞けなくなるのかな…と、諦めかけたところで主ちゃんから「お願いがある」と言ってきた。
「どうしたの?」
「あのね、タピオカドリンクの割引券手に入ったんだ。期間限定メニューが今日までだから、よかったら一緒に行かない?」
「ぇ…っ」
嬉しい衝撃に声が止まる。
「トド松くん?」
「あ…」
あまりの嬉しさに思考が停止しかけたけど、答えは言うまでもなく、
「いいよ!ちょうど時間できたとこ。駅で合流しよ」
「今回はお兄さん達大丈夫?」
「平気!駅前の本屋にいるから着いたら連絡して」
「ありがとう!じゃあまたあとで」
ハッピーな気分で電話を切る。
もしかして主ちゃんに薬が効かなかったのは始めからボクのこと———なーんてねっ♡
鼻歌交じりに香水を吹きかけていると、一松兄さんが戻ってきた。