第12章 ※くすり〜トド松〜
主ちゃんは真っ直ぐボクらに向かって来た。
数歩離れた距離で歩みを止め、訝しげな目つきで数秒トッティゴーラウンドを眺めてから恐る恐る口を開く。
「トド松くん…だよね?」
兄さん達の動きがピタリと止まり、全員の視線が主ちゃんへ。
すると、主ちゃんはボクらを見て至極当たり前な反応をした。
「あ、顔がおんなじ!もしかして兄弟ですか?4つ子?」
「本当にそっくりー」なんて言いながら4人の顔を見定めている。
こんな変態行為を見られたならば、今はおそ松兄さんあたりになりすまそうと思ったけど、
「おたくさぁ、空気読んでくれる?今僕ら取り込み中なんだけど」
シコ松がクソ対応したのでその選択肢は消去。女子様に向かって何その態度!?
「えっ?す、すみません」
「あーもうっ!兄さん達降ろして!ごめん主ちゃんちょっと待ってて」
ボクがそう言うと、主ちゃんはハッとした表情になった。少し迷ってたみたいだけど、ボクがトド松と判別したようだ。
「トド松くん、それなんて遊び?すっごく変だよ?」
「これ?えーっと、うーんと…」
「遊びじゃなくて真剣勝負だよ!」
と、口を挟む十四松兄さん
「へぇ…そうなんですか」
即座に引かれた。
なに言ってくれちゃってんの?勝負じゃなくて奇行だよ?デートが始まる前から印象最悪だよ。
「チッ、邪魔が入った」
舌打ちと共に一松兄さんがパッと手を離す。「えーやめちゃうのー?」と言いながら十四松兄さんもボクの両脚を降ろす。
解放されたのはいいものの、まだ目が回っているボクはよろけてしまい、チョロ松兄さんに抱きとめられた。
「平気?」
「うん。ありがとチョロ松兄さん」
「ったく、気をつけて」
チョロ松兄さんの腕の中。心臓の鼓動が伝わってくる。それはもう煩いくらいに。
まずい。この体勢はまずい。チェリ松がときメモってる。
「もう大丈夫だから」
「落ち着くまでこうしてたら?」
「けっこうです」
ニッコリしながら瞬時に距離を置き、主ちゃんに向き直った。
「待たせてゴメンね、行こっか?」
「う、うん」
「バイバイ兄さん達」
殺したいほどの憎しみは笑顔の仮面に隠し、クソ共に手を振った。