第12章 ※くすり〜トド松〜
「ダメでしょ?メインヒロインが逃げちゃ」
「ヒロインじゃねーし!」
「ほかーく!」
「ィヒヒ、こりゃあ躾が必要ですねぇ…」
くつくつと笑う闇松兄さん。十四松兄さんの何考えてるのか分からない笑顔と相まって不気味だ。
右腕をチョロ松兄さん、左腕は一松兄さん、両脚は十四松兄さんに掴まれ、三方向から引っ張られる。
「いだだだだ!裂ける!裂けるって!」
「すみません紫の方、痛がってるんで手を離してもらってもいいですか?」
「そちらが先にどうぞ」
「私は後でいいんでそちらが」
「いえいえ、どうぞお気遣いなく」
「2人ともうるさいうるさいうるさーい!トッティはぼくの!」
まるで中世の拷問だ。ボクのか弱い四肢が今にも引きちぎられそう。
恋って恐い。こんなにも人を変えてしまうんだから。ボクはなんて罪深いトッティなんだろう。
「離してよ!ボクはみんなのトッティだよ!」
「ゆーじゅーふだーん!八方美人っ!」
「そうだよ!元はと言えば、お前が心に決めた松を1人に絞らないからこういう争いがおきるんだよ!」
「おれに気を持たせるだけ持たせて…って、人が喋ってる隙を狙って引っ張っんじゃねぇシコ野郎っ!」
一松兄さんが勢いよく左腕を引っ張ると、バランスが崩れて3人が回り出す。ボクを軸にプロペラのように、それはそれはグルグルと。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
道行く人が白い目でボクらを見ながら距離を取って通り過ぎる。
当然だ。
「あっはは!なんかぼく楽しくなってきたー!せいやっせいやっせいやーー!」
「よーし僕も負けないぞ!せいやっせいやっ!」
「お、おれだって…!せぃやぁぁぁ!!」
兄さん達の目がいきいきと輝いている。さながら熱い戦いを繰り広げるスポーツ選手のそれっぽいアレだ。
「ああああああ!!」
無情にも回り続けるトッティメリーゴーラウンド。目が回り頭がグワングワンする。
と、目まぐるしい景色の中、遠くに1番見られたくない人の顔が見えた。
気のせいかと思ったけどそんな訳ないよね。だって、もう待ち合わせの時間だもん。