第12章 ※くすり〜トド松〜
「みんなありがと。でも1人で起き上がれるから」
立ち上がろうとすると、3人が円陣を組んでボクを閉じ込めた。
「なに自力で立ち上がろうとしてんだよ?救いの手を差し伸べられたら素直に握れよ!」
一松兄さん、とても人を救おうとしている人の目つきではないよ。
「ぼくの腕関節外せばもっと伸びるよー!」
「怖がらないで、さぁ、僕の手を!」
「このシコがっ!てめぇのシコった臭ぇ手で触るんじゃねぇっ!」
喧嘩を吹っかける一松兄さんにチョロ松兄さんも応戦する。
「はぁっ!?大体言わせてもらうけど、お前らだってシコりまくってるくせになんで僕だけそーゆーキャラなんだよ!」
「てめぇが不注意でシコ松見られたからだろ!繊細な行為こそ周囲に気を使えよ!あとキャラ的に1番ネタになるんだよボケェ!!」
「ぼけー!」
シコ松兄さんがナニをシコ松してる話なんかどうでもいい。
人の頭上でなに盛り上がってんの?早く解放して。
「なんでもいいからみんなどいて!」
ボクの声は兄さん達に届かず、ますますヒートアップする。
「ねぇ知ってる?性犯罪者は性的な夢を見ないんだよ?つまり、シコ松は世界平和の為に必要なの!」
「世界平和ぁぁあ!?壮大なスケールで開き直ってんじゃねぇ!」
「やるのかあんゴルァ!」
「上等だオラァ!」
ついにはボクの頭上で取っ組み合いの喧嘩が始まった。2人の身体がぶつかり合う。
「あのー」
手で頭をガードしながら話しかける。
「ボク急いでるんだけど」
ダメだ。誰も聞いてない。
だけどこれは逆に好機。
争いに乗じて今のうちに逃げよう。
四つん這いで、戦場と化したアスファルトから抜け出しひたすら進む。
もう少し…もう少しで駅に——
「どこ行くの?トッティ」
「ヒィッ!?」
チョロ松兄さんに捕獲される右腕。
一縷の希望は無情にも砕け散った。