第12章 ※くすり〜トド松〜
「はぁ…はぁ…」
早足で駅前商店街に辿り着いた。膝に手をつき呼吸を整える。
この流れならば予想は容易い。きっと他の兄さん達も惚れ薬を——
「あ、トド松」
「早いよぉぉぉ!!」
「え?」
「ちょっとは休ませろよシコ松!!」
「なんで出会い頭にキレられてんの、僕?」
つぶらな瞳でポカンとしてるチョロ松兄さんに、ボクは苛立ちを隠せない。
今、ボクと対峙しているのは兄弟1ムッツリなシコ松。
美少女フィギュアで鼻息を荒げる哀れなシコ松。
アイドルのライブで曲ではなくエロいことばかり考え鼻の下を伸ばすシコ松。
ボクは騙されない。
涼しい顔してボクの童貞を狙ってるんでしょ?ボクの大切なアレやソレを奪いたいんでしょ!
もうやだ。松不信。兄さん達全員飢えた獣に見えてくる。コワイ!童貞の執念コワイ!
あぁ、ボクはがっつかないワンランク上の童貞でありたい。
「ボク用事あるからはいここでバイバーイ!」
「そうなんだ。どこ行くの?」
「どこだっていいでしょ!1人にして」
そう吐き捨ててから数歩進んで振り返る。
……だ か ら、
「ついてくんなし!」
「ついて行ってないよ。たまたま方向が同じだけ。なんでそんなケンカ腰なんだよ?」
「……」
確かに感情的になりすぎた。冷静になろう。
ジーーッと瞳を見つめると、チョロ松兄さんは小首を傾げた。
うん、可愛いボクに見つめられて平気ならば、チョロ松兄さんはシロかもしれない。
ボクはちいさく息をついた。
「ごめんごめん、急いでたからイライラしちゃってさ」
「ニートな僕らにとって、時間なんて腐るほどあるんだから焦んなくていいんじゃない?」
「あはっ、だよね♪」
「あー!トッティとチョロ松にーさーーん!」
「また増えたぁぁぁぁ!!」
十四松兄さんと一松兄さんまで来やがった。
うなだれて頭を抱える。頭がおかしくなりそうだ。
どうして悪い事って立て続けに起こるんだろう。
カミサマは意地悪だ。