第28章 沖縄旅行は海の香り
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「おはよー、元気になった?」
岡野さんが原さんに声をかける。
「おかげさまで、やっぱ皆ジャージなのね」
ウィルスに倒れていた人は皆回復。しかし私服に着替える気力は全員ない。
「他に客誰もいないしこれが楽だわ」
木村くんがあはは、と声を出すと不破さんも頷く。
……あ、まただ。
漫画だとここで不破さんはメタ発言をするはずだった。その発言はなかったことになっている。
じわじわ世界が侵食されてゆく。その事実の恐ろしさとあまり寝ていない事もあってか頭がぐわぐわする。
「今あの中に殺せんせーいるの?」
「うん」
「ダメ元だけど…戻った時殺せるようにガッチリ固めておくんだって」
「ああ、やっと殺せんせーあの丸っこい状態から戻るのか」
「殺せんせーを対先生弾の中に入れてそれを鉄板で囲んでさらにコンクリートの塊に包んで海にぶっこむって結構やってることむちゃくちゃだな」
「烏間先生が不眠不休で指揮とってる。疲れも見せずすごい人だよ」
あ、だめだ。朦朧とする。景色が霞む。立っていられない。岩場にそのまま頭を打ち付けるのだけは避けなきゃ。
そう思っていたら、ふいにガッと腕を掴まれた。
「東尾? 大丈夫かよ」
「…………寺坂」
そこにはウィルスにやられていたとは思えない程しっかりと立っている寺坂がいた。
「水分不足か?」
「……いや…ごめん……ありがとう……ああ、ええと…睡眠…不…足……」
寺坂、さっきも思ったけど女子の体そんなすぐ触るもんじゃないよ。
軽口を叩こうとした口はうまく動かず、その後ろで会話は続く。
「いいなと思った人は追いかけて、ダメだと思った奴は追い越して、多分それの繰り返しなんだろーな。大人になってくって」
その言葉が終わると爆発音が聞こえた。どうやら殺せんせーの暗殺が行われたらしい。波音がざわめき、塊が海をつんざく。
その音が遠い。
もう意識が無くなりそうだ。
そう思った時、寺坂から手が離れた。