第28章 沖縄旅行は海の香り
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どうしてだろう。涙が止まらない。
学秀に心を許したからだろうか。それとも電話だから全ては伝わらないと思っているからだろうか。
それとも皆で殺しに行ったこの海を眺めて感傷に浸っているからだろうか。
きっと全部だ。全部が私をそうさせる。
「家族の元に戻れるのが凄く嬉しい。すごく嬉しい……」
『……ここを離れたくないのも自分の感情か?』
「そう、そうなんだよ。変だね」
暗殺ができない心残りはもうない。悔しさはあるけど私はやりきった。
「でも帰るよ。家族より大事なものなんかないんだ。友達との天秤にかけるのが難しいものだけど、それでも……」
『……僕には分からない。その複雑な感情を今度教えてくれ。ぜひその常夏の島じゃない所でな』
「あは、そうだね。わかった。勉強頑張ってね」
『京香もな』
「うん、じゃあね学秀」
タップして電話を終わらせる。
ひとつため息をついて私はさらさらの砂場に座り込んだ。
「あー……そうか、あと2ヶ月か……」
あと2ヶ月すればここから帰れるのか。
考えるのをやめたい。そもそもシロはちゃんと私を帰らせる気があるのかとか暗殺をやめることは不自然ではないのかとか、考える事が多すぎて放棄したくなる。
でもその度家族の顔が、ナツの顔が、仁くんの顔が頭をよぎる。
「……ダメだ、考えるのをやめるな」
常に考え続けなければ。
何で帰りたいんだ。どうやって帰るんだ。
頼るつては敵でもあるあいつしかいないのだから。
「……やめちゃ、だめだ……」
竹林君の事件はなくなった。
あとはイリーナ先生の事件。
「……嘘、イリーナ先生の誕生日は10月だ。ギリギリ行けないかも」
どれが先でどれがあとかも結構あべこべになってきている。
「文化祭は先だったっけ。あの養護施設のような……あれは学童だったっけ。学童のイベントは……」
一つ一つのイベントは覚えていても順繰りになると曖昧になる。人間の記憶力は脆い。
「好きな漫画だったんだけどなあ……」
手に持っていた日々がだいぶ前のようだ。
というかだいぶ前なのだけれど。もう4ヶ月は触っていない。
……?
バッと後ろを向いた。
誰もいない。ヤシの木がたくさんさわさわと揺れるのみ。
……気のせいか。
私は部屋へと戻ることにした。