第28章 沖縄旅行は海の香り
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……学秀……E組……って…………だから…………ごめん…………。
遠くから聞こえる言葉は喧騒の中にあるように僅かしか耳に届かない。
それでも聞きなれた言葉は聞き取ることが出来た。
「……学秀? ってあいつか? なんでそんな奴と東尾が電話して…」
「よく聞き取れるね、磯貝君」
大部屋で、皆よりひと足早く起きて。
廊下にある自動販売機で何か飲もうと部屋を出たら、そこに彼女がいた。
何だかすぐには帰りたくなくて、ホテルからすぐの海へ二人で向かう。その途中、東尾が見えた。
「片岡、聞こえないか?」
「磯貝君は耳いいのね。私あんまり聞こえないや……でも、電話してる相手すごく仲いいんだね。顔の綻び方がいつもと全然違うもの」
「相手が浅野学秀でもか?」
「え、学秀ってあの浅野くんの事?! いつのまに京香連絡先交換したんだ……すごいね」
まあでも敵って言ってもとんでもなく敵対してるって訳じゃないし、京香ってちょっと不思議なところあるしなあ。
片岡はそうぼやくが、俺は違和感が拭えなかった。
「東尾から絡むような相手には思えないんだよな。なんか弱みでも握られてたりして」
ふっと言った言葉はやけに現実味があった。
さっきまで笑っていた片岡がふいに真剣な目を向けてくる。
「弱み、って…………私達も知らない、京香の秘密?」
「うん。でも、俺たち探らないようにって決めたじゃんか」
修学旅行の一班。
俺や片岡、前原や岡野など、言ってしまえば好奇心旺盛だったりクラスメイトの心配事は知っておきたかったりするタイプが集まったこの班は、夏休み前シロが来てE組に波乱が巻き起こった後、とある話をしていた。
曰く、『他の人は探るかもしれないが僕達はあまり探らないようにしよう』。
単純に良い奴が多かったのもある。
でも、それ以外の何かを感じる奴が多かったのだ。
「なんか、東尾って地雷踏んだら消えそうな感じある」
前原がそう言っていたのを聞いて、それだと俺は思った。
何か、踏み込みすぎてしまうと、殺せんせーよりも恐ろしい存在に触れてしまうような。
「……でも、気になるよ。やっぱり……前泣いてた京香を見たら放っておけない、って思ったの……」
片岡が見つめていた視線を外し、東尾の方に目をやる。