第28章 沖縄旅行は海の香り
こうして私たちの大規模潜入ミッションは、ホテル側の誰一人気づかないままコンプリートした。
イリーナ先生も抜け出したという連絡があり、私達は疲労困憊のままヘリコプターに乗り込む。
「…寺坂君」
一人ウィルス(治るとは断言されたけど)に侵されている寺坂に、渚君が声をかけた。
「ありがとう、あの時声をかけてくれて。間違えるところだった」
それを聞いた寺坂は、一度胡乱な目をした後、
「…ケ、テメーのために言ったんじゃねぇ。1人欠けたらタコ殺す難易度上がんだろーが」
「うん…ごめん」
ヘリコプターがほんわかした空気に包まれた。
さあ、あとは皆の元へ帰って、この錠剤を飲ませてあげよう。
きっと明日は大丈夫だ。
「……そうだ、東尾」
……ん?
「オメーだオメー!!」
「ゲフッ!?」
横にいた寺坂は熱があると感じさせない程の強い力でバシンと私の背中を叩いた。
「いってぇわ!! なになに!?」
「あー、助かったわ」
「は?!」
全く主語がない。
「何の話?」
首を傾げると、寺坂はじれったい、と吐き捨てた。
「これだよこれ!!!!」
「わっ!」
手をグイと引っ張られ、寺坂の首元に私の手が当てられる。
そこには私が貼った冷えピタ。
「……だいぶ気ィ楽になった、サンキュ……な……」
「え、ちょ、ちょっと!!」
寺坂はそのまま眠り込んでしまった。
「……えええ…………」
寺坂は休んでいなかったということで先に錠剤を飲ませた。結果寝ても問題は無い、無いけど。
「……手は離して欲しいな……」
首を触るためにめいっぱい伸ばされた手はもう既に痺れそうだ。
「ちょっと凜香手伝ってくれる?」
「ん……いいよ」
隣に座っていた凜香がそっと私の手首から寺坂の手を離すとようやく私は手を下ろすことが出来た。
周りを見ると皆がこちらを見ている。
「?」
その顔は主に怪訝。
「皆どうしたの」
私が問いかけると、代表して凜香がこちらを向いて言った。
「京香、なんで冷えピタなんて持ってんの」
「……あ、あ」
一瞬反応が遅れたが、私は笑って腰にあるポーチを指さした。
「この中にあるよ。他にも絆創膏とか塗り薬とかかゆみ止めとか入ってるけど……必要な人いる?」
わざとだ。
私はわざと論点をずらした。
皆はどこにあるのかじゃなくて、何で持ってるのか聞きたかったんだろう。