第28章 沖縄旅行は海の香り
それは錠剤の入ったガラス瓶。
「その栄養剤患者に飲ませて寝かしてやんな。『倒れる前より元気になった』って感謝の手紙が届くほどだ」
アフターケアも万全……。この人たちも人間で、暗殺者だから、色々考えてたって事なんだろう。まだ中学生の私には読んでいなきゃわからない世界だったけど。いい肩透かしを食らった気分だ。
「………信用するかは生徒達が回復したのを見てからだ。事情も聞くししばらく拘束させてもらうぞ」
ヘリコプターが上から二台迫ってくる。バラバラと翼の音。
「…まぁしゃーねーな。来週には次の仕事が入ってるから、それ以内にな」
一台は私たちが。もう一台は暗殺者の三人と捕まえられた鷹岡、そして鷹岡に雇われたホテルマンが乗せられるのだろう。
「…なーんだ、リベンジマッチやらないんだおじさんぬ」
連れられるグリップに向けてカルマくんが声をかける。
「俺の事殺したいほど恨んでないの?」
にひ、と悪魔の角が見えるほど凶悪な顔をするカルマくん。その手にはワサビ&カラシ。
「殺したいのはやまやまだが、俺は私怨で人を殺した事は無いぬ」
グリップの赤い唇は静かに孤を描いた。
「誰かがお前を殺す依頼をよこす日を待つ。だから、狙われる位の人物になるぬ」
そしてその頭蓋骨をわれる程の怪力の手は、優しくカルマくんをポンと叩いた。
カルマくんは拍子抜けの表情だ。
「そーいうこったガキ共!! 本気で殺しに来て欲しかったら偉くなれ!!」
ヘリコプターの音に紛れて銃を空に打つ音が聞こえる。三人はそれに乗り込んで高らかに笑った。
「そん時ゃ、プロの殺し屋のフルコースを教えてやるよ」
その中の何発かの残骸が私たちに優しく、しかし物騒な音を立てて降り注ぐ。
「薬莢だ……」
私はひとつ拾い上げ、ヘリコプターにかざした。
……やっぱりまだまだだ。きっと、あの人たちくらい強くなったら、シロにも……。
「………なんて言うか、あの3人には勝ったのに勝った気しないね」
凜香が千葉くんの横で呟いた。すると近くにいたカルマくんは、
「言い回しがずるいんだよ。まるで俺等があやされてたみたいな感じでまとめやがった」
と頭を抑えた。
「………年季が違うなぁ…」
過ぎ去ってゆくはずのヘリコプターはいつまでも大きく見えて、太陽はまだ上がっていないのに眩しかった。