第28章 沖縄旅行は海の香り
「おまえ達の雇い主は既に倒した。戦う理由はもう無いはずだ」
烏間先生の言葉に、銃を銜えたガストロら三人は黙っている。
「俺は充分回復したし、生徒達も充分強い。これ以上互いに被害が出る事はやめにしないか?」
軽く指を指す烏間先生に、私達も闘う構えをとる。
「ん、いーよ」
「あきらめ悪ィな!! こっちだって薬が無くてムカついて……え? いーよ?」
先走り怒った吉田くんはガストロの言った言葉を後追いで理解した。
「いーよ、って……戦わないってこと?」
「『ボスの敵討ち』は俺等の契約にゃ含まれてねぇ。それに今言ったろそこのガキ。そもそもおまえ等に薬なんざ必要ねーって」
吉田くんは、
「…?」
と意味がわかっていない。
ちょっとガストロさん主語抜きすぎでしょこれ……。
代わりに説明しだしたのはスモッグ。薬の人だ。
「おまえ等に盛ったのはこっち。食中毒菌を改良したものだ」
スモッグの手の中で踊るガラス瓶。中で液体がチャプ、と揺れる。
「あと3時間位は猛威を振るうが、その後急速に活性を失って無毒となる」
つまり。
「そしてボスが使えと指示したのはこっちだ。これ使えばお前らマジでヤバかったがな」
私たちが使われた毒は死ぬものではなかったという事だ。
「使う直前にこの3人で話し合ったぬ。ボスの設定した交渉期限は1時間。だったら、わざわざ殺すウィルスじゃなくとも取引はできると」
「交渉法に合わせて多種多様な毒を持ってるからな。おまえ等が命の危険を感じるには充分だったろ?」
「…でもそれって、アイツの命令に逆らってたって事だよね。金もらってるのにそんな事していいの?」
岡野さんの純粋な疑問にガストロは一睨みきかせた。
「アホか、プロが何でも金で動くと思ったら大間違いだ。もちろんクライアントの意に沿うように最前は尽くすが……ボスはハナから薬を渡すつもりは無いようだった。カタギの中学生を大量に殺した実行犯になるか。命令違反がバレる事でプロとしての評価を落とすか。どちらが俺等の今後にリスクが高いか、冷静に秤にかけただけよ」
一人の悪どい権力者。十何人もの何も知らない中学生。
どちらの方が警察の捜査が進むか。証拠が残るか。経歴に傷がつくか。
3人の暗殺者はそこを焦点にしたんだ。
「ま、そんなワケでおまえらは残念ながら誰も死なねぇ」
スモッグから何かが投げられた。