第28章 沖縄旅行は海の香り
「渚…笑って歩いてく…」
「これって前と同じ…」
皆が動揺を隠せない中、殺せんせーも冷や汗を垂らした。
「…いや、どこか違う」
殺せんせーが知らない技を出す渚君は、自信ありげに微笑んで鷹岡の方へ歩いていく。
「くっそガキィ〜…」
鷹岡の目がギラリと光った。その目はまっすぐに渚くん……ではなく、渚君の持っているナイフへ向かっている。
どんどんと接近して、3メートル、2メートル、1メートルまでゆっくりと歩んだ後。
渚君はナイフを空中に置くように捨てた。
そしてそのまま。
ノーモーションで、最速で。
思い切り手を叩いた。
その音は衝撃波となり、緊張度とトラウマが高まっていた鷹岡に響く。脳みそに、そして身体中に。
あまりの衝撃に大きく上体を仰け反らせた鷹岡は、信じられないと言った様子で、
「な、にが、起、こっ」
渚君は───暗殺者は、その数瞬を見逃さない。油断している相手を前にするその行為は、紛れもなく暗殺。
腰に差していたスタンガンを脇に当て、バチッと鳴ると、
「ぎッ」
という獣が出すような声を上げて鷹岡は勢いよく座り込んだ。
猫騙し。
しかし、暗殺でも使えるほどに練習され、波動を出せるようになったもの。
相撲でよく使われるこの手は、渚君がロヴロさんに教わっていた……というのがこの話の本筋だった。ロヴロさんは渚君の暗殺者としての才能に気付いていたんだ。
「……すげぇ…」
菅谷君が思わず零した言葉は、クラス全員の想いだった。
「…とどめ刺せ、渚」
寺坂がぼそりと呟く。それはスタンガンを買った者として知っていること。
「首あたりにたっぷり流しゃ気絶する」
渚君はその言葉を聞いて、俯いている鷹岡の首にツィ、とスタンガンをあてた。恐怖の表情を浮かべる鷹岡。
なんで、どうして、2回もこのガキに。
そんな顔は一瞬で変貌した。
「鷹岡『先生』、ありがとうございました」
今まで教わった、抱いちゃいけない殺意。殴られる痛み。友人の大事さ。
それら全てを包括して笑った渚君の笑顔に、鷹岡は屈服した。
今度こそと言わんばかりにバチッと大きく鳴ったスタンガン。
座り込んでいた鷹岡は意識を失い倒れた。
茅野ちゃんが大きく息を吐く。
鷹岡を倒した。その事実にようやく気付いた皆は、
「よっしゃああ!! ボス撃破!!!!」
諸手を挙げてそう叫んだ。