第28章 沖縄旅行は海の香り
「殺してやる…よくも皆を」
渚君から立ち上るのは紛れもなく殺気。『必ず殺す』という強い意志。
「はははははその意気だ!! 殺しに来なさい渚君!!」
対して鷹岡は渚君に攻撃させる気など全くない。自分が一切傷つかず、渚君を一方的に嬲る気だ。
「渚…キレてる」
「俺等だって殺してぇよあのゴミ野郎、けど、渚の奴マジで殺る気か!?」
イケメグと吉田くんが悔しそうな顔で渚君を見つめる。
一方茅野ちゃんの胸に抱かれた殺せんせーは冷静に声をかけた。
「渚君の頭を冷やして下さい。君しかできません。寺さ…」
しかしその言葉は寺坂が投げた物で中断された。
それは渚君の頭にクリーンヒット。それを見て寺坂は叫んだ。
「チョーシこいてんじゃねーぞ渚ァ!! 薬が爆破された時よ、テメー俺を憐れむような目で見ただろ」
無言は肯定。渚君は黙り込んでいる。
「いっちょ前に他人の気遣いしてんじゃねーぞモヤシ野郎!! ウィルスなんざ寝てりゃ余裕で治せんだよ!!」
分かっている。身体中がブドウのようになるウィルスなんてまともなものじゃない。寝てても治るわけがない。
それでも寺坂は分かったんだ。この時声をかけるのは自分だということが。だから殺せんせーに声をかけられている途中に食い気味で物を投げた。
「寺坂……おまえ!!」
クラスの委員長である磯貝くんは驚き、寺坂を見る。しかしその声に寺坂は反応しなかった。もっと大事なことがあったからだ。
「そんなクズでも息の根止めりゃ殺人罪だ。テメーはキレるに任せて百億のチャンス手放すのか?」
きっと立っているだけでも辛いであろう寺坂はそれでも声を張り上げる。
「寺坂君の言う通りです渚君。その男を殺しても何の価値もないし、逆上しても不利になるだけ。そもそも彼に治療薬に関する知識など無い。下にいた毒使いの男に聞きましょう。こんな男は気絶程度で充分です」
殺せんせーはいつもの笑顔でそう言った。しかし鷹岡は、
「おいおい余計な水差すんじゃねェ。本気で殺しに来させなきゃ意味無ぇんだ」
と話す。
「このチビの本気の殺意を屈辱的に返り討ちにして…はじめて俺の恥は消し去れる」
「渚君、寺坂君のスタンガンを拾いなさい」
鷹岡の言うことなど聞くな、とでも言うように殺せんせーは言葉を無視した。