第28章 沖縄旅行は海の香り
「だがな。一瞬で終わっちゃ俺としても気が晴れない。だから闘う前に…やることやってもらわなくちゃな」
みんながぽかんとするなか、私は自分の奥歯からギリ、と音がするのを聞いた。噛みすぎで頭がズキリと痛む。
鷹岡の指が私の目の前でスローモーションで下がってゆく。
「謝罪しろ。土下座だ」
……鷹岡の野郎……!!!!
「実力が無いから卑怯な手で奇襲した。それについて誠心誠意な」
ボタンを触り、煽る鷹岡に渚君はしばし黙ったあと膝をつき、
「……僕は…」
と言葉を紡ぎ出したが、鷹岡は激昴した。
「それが土下座かァ!?」
そして足をダンとつく。
「バカガキが!! 頭こすりつけて謝んだよォ!!」
渚君は手を付き、頭を下げる。
「僕は、実力が無いから、卑怯な手で奇襲しました…ごめんなさい」
悔しそうな顔で寺坂が見上げた。
「おう。その後で偉そうな口も叩いたよな。『出ていけ』とか」
鷹岡はさっきダンとついた足で渚くんの頭を足蹴にする。
「ガキの分際で大人に向かって、生徒が教師に向かってだぞ!!」
渚君は、ウイルスのワクチンさえ手に入れば良いと思っている。だから、この仕打ちにも耐えられる。
「ガキのくせに、生徒のくせに、先生に生意気な口を叩いてしまい、すみませんでした」
でも、でも。
「本当に…ごめんなさい」
許せるものでは無い!!!!
にまっと笑った鷹岡に寒気と怒りが止まらない。シロのように、初期のイトナ君のように。
絶対に一生許さない。
「…よーし、やっと本心を言ってくれたな。父ちゃんは嬉しいぞ。褒美にいい事を教えてやろう」
くるっと渚君に背を向け、鷹岡はアタッシュケースの方に向かった。
「あのウィルスで死んだ奴がどうなるか、"スモッグ"の奴に画像を見せてもらったんだが、笑えるぜ。全身デキモノだらけ。顔面がブドウみたいに腫れ上がってな」
アタッシュケースを持ち上げ、ボタンを朗らかに顔の横に持っていく。そしてその声色は一変した。
「見たいだろ? 渚君」
アタッシュケースが宙を舞う。そしてそれに向かってボタンを向ける。
「やッ、やめろーッ!!」
烏間先生の悲痛な叫びの最中、ピッという無機質な音が聞こえた気がした。