第28章 沖縄旅行は海の香り
「へー、つまり渚君はあんたの恨み晴らすために呼ばれたってわけ」
カルマくんが鷹岡と渚君の間に立った。
「その体格差で勝って本気で勝って嬉しいわけ? 俺ならもーちょっと楽しませてやれるけど?」
それに続けて荒い息を吐く寺坂が睨む。
「イカレやがって。テメーが作ったルールの中で渚に負けただけだろーが。言っとくけどな。あの時テメーが勝ってよーが負けてよーが俺等テメーの事大ッ嫌いだからよ」
全くもってその通りだ。わたしは寺坂を見上げて頷く。
だが鷹岡はそんな言葉意にも介さなかった。
「ジャリ共の意見なんて聞いてねェ! 俺の指先でジャリが半分減るって事忘れんな!!」
「………」
寺坂は悔しそうに黙り込む。
「……ジャリって言いやがったな……」
私も臍を噛み俯く。
許せない、鷹岡。
これからする行為を含めて!!
「チビ、おまえ1人で登ってこい。この上のヘリポートまで」
ボタンとアタッシュケースを持ち鷹岡は軽く手をあげた。そこにはハシゴのような階段がかかっている。
「渚、ダメ。行ったら」
「………」
茅野ちゃんの言葉に渚君は少し悩んだ後、殺せんせーを放った。
「……………………行きたくないけど……行くよ」
風になびくパーカーが心境を表すように荒ぶる。
「あれだけ興奮してたら何するかわからない。話を合わせて冷静にさせて治療薬を壊さないよう渡してもらうよ」
「渚君」
「渚」
烏間先生と茅野ちゃんが声を上げ、茅野ちゃんの無い胸に抱かれた殺せんせーは見るからにわかる汗を(丸い玉の中で)流していた。
こちら側と鷹岡、渚君側を繋ぐ階段が外され、下に落とされた。ガシャンと剣呑な音がする。
「これでもうだれーも登って来れねェ」
屋上にあるのはさっきのボタン、アタッシュケース、二人、そして、ナイフがふたつ。
「足元のナイフで俺のやりたい事はわかるな? この前のリターンマッチだ」
厳しい顔の渚君が口を開く。
「………待って下さい鷹岡先生。闘いに来たわけじゃないんです」
「だろうなァ、この前みたいな卑怯な手はもう通じねぇ。一瞬で俺にやられるのは目に見えてる」
……それは正しい。警戒マックスの防衛省エリートに一介の中学生が勝てるわけなどない。