第28章 沖縄旅行は海の香り
この作戦が、けして成功ではないだろうことを。
「かゆい」
背中を向けたまま、そいつはぼそりとそう言った。
皆の動きがとまる。
「思い出すとかゆくなる」
ポリポリと頬を掻いて。
「でも、そのせいかな」
じゃらり、となにかの音がする。
「いつも傷口が空気に触れるから…感覚が鋭敏になってるんだ」
バッ、と数十個ものボタンが宙を舞った。それがボトボトと落ちてくる。
「!!」
「言ったろう。もともとマッハ20の怪物を殺す準備で来てるんだ。リモコンだって超スピードで奪われないよう予備も作る」
横顔が見える。頬にひっかいた傷が。ストレスでかきつづけた三本の線が。
「うっかり俺が倒れ込んでも押すくらいのな」
聞き覚えのある。前よりも、ずっとずっと、邪気の孕んだ声。
「…連絡がつかなくなったのは────3人の殺し屋の他に『身内』にもいる」
烏間先生が眉間にいつもの数倍皺を寄せてそいつを睨んだ。
「防衛省の機密費────暗殺に使うはずの金をごっそり抜いて…俺の同僚が姿を消した」
烏間先生の同僚で、私たちの会ったことある人。
邪気を孕んで。私たちに危害を与えようとした人。
「…どういうつもりだ」
ギシリと椅子が軋む。ふりかえった、その顔。
「鷹岡ァ!!」
目をギョロリと光らせ、足を大きく広げて、気持ち悪く笑う。
「悪い子達だ…恩師に会うのに裏口から来る。父ちゃんはそんな子に教えたつもりはないぞ」
────誰が、あんたなんか恩師だと、父親だと思うか。
「仕方ない。夏休みの補習をしてやろう」
その顔の裏なんか、二度と見たくなかったのに。