第28章 沖縄旅行は海の香り
寺坂の着ているアロハシャツの襟元を後ろから思い切りはだけさせる。
「ちょ、東尾さん?」
「渚くんも手伝って」
私が手に持っていて、この島までわざわざ持ってきたもの。それは、普通のもの。
「……冷えピタ?」
「そ、冷えピタ。ほら」
「うおあっ、冷て……ッ」
寺坂がくっ、と歯を食いしばる。
「いーじゃん、気持ちいいでしょ?」
2枚、3枚4枚とどんどん重ねていき、上手いこと隠せるように薄いタオルを巻く。
「お前なんでこんなもん持って……」
「いいから」
そういうの冷静につっこまれると困っちゃうから!
寺坂は不審そうにしながらもありがとう、と言ってくれた。
────
最上階。
風の音が聞こえる。
最上階のカードキーは、さっき9階の見張りから奪った。烏間先生は、静かにカードキーを差し、扉をスウ、と開ける。先生はこう言っていた。『階段ルートの侵入者を、本気で警戒していたわけではなかったのだろう』と。そして、気配を消すために『あの歩き方』を使えとも。
烏間先生がさっと手を挙げた。
それを合図に、みんなが歩き出した。
私達の歩き方は、『ナンバ』と呼ばれるものだ。手と足を一緒に前に出して、衣擦れ、靴の音を抑える。昔は忍者も使った歩法らしい。
静かに、静かに近付いて。持てる最大の武器と、最悪のシチュエーションで。
……その人はいた。
近くにあるのは配線のついたスーツケース。中には、きっとウィルス治療薬。スーツケースには爆弾がついている。
背中を向けているそいつは、手元に起爆リモコンらしきボタンを置いていた。
……打ち合わせ通りに。
まず可能な限り接近して、出来れば取り押さえる。遠い距離で気付かれたら、烏間先生が『本人』を撃つ。リモコンを取る手を遅らせたら、皆で一斉に襲いかかって拘束する。
焦った顔、見せてもらう。
苦しんでる皆の前で、謝ってもらう。
だけど。
私には、わかっている事なんだ。