第28章 沖縄旅行は海の香り
しばらく大きい音と移動が続いた後、殺せんせーの声がピンと張り詰めた。
「…さていよいよ狙撃です千葉君。次の先生の指示の後…君のタイミングで撃ちなさい。速水さんは状況に合わせて彼の後をフォロー。敵の行動を封じる事が目標です」
……そう、不殺だ。命を殺すんじゃなく、相手の動きを殺す……。
「…が、その前に。表情を表に出す事の少ない仕事人ふたりにアドバイスです」
殺せんせーの声がふっと和らいだ。
「君達は今ひどく緊張していますね。先生への狙撃を外した事で…自分達の腕に迷いを生じている。
言い訳や弱音を吐かない君達は…『あいつだったら大丈夫だろう』と勝手な信頼を押しつけられる事もあったでしょう。苦悩していても誰にも気付いてもらえない事もあったでしょう」
言い訳や弱音を吐かない、千葉龍之介、速水凛香の仕事人コンビ。二人の狙撃は完璧だけど、確かに表に出る表情は真顔か微笑み、変化に富まない。
でもその裏を分かってくれるのが、きっと殺せんせーなんだ。
「でも大丈夫。君達はプレッシャーを1人で抱える必要は無い。
君達2人が外した時は人も銃もシャッフルして…クラス全員誰が撃つかもわからない戦術に切り替えます。ここにいる皆が訓練と失敗を経験してるから出来る戦術です。
君達の横には同じ経験を持つ仲間がいる。安心して引き金を引きなさい」
……あーやっぱ、私が『大丈夫だよ』って伝えるのより、殺せんせーのこういう言葉の方が何倍も何百倍も伝わる!
「では、いきますよ」
きっとガストロも私達の緊張も最高潮のアベレージだ……!
「出席番号12番!! 立って狙撃!!」
バッと音がすると同時に、もはや聞き慣れてしまった銃声音が聞こえた。
そして、その次の銃声音も。
1度目の銃声音は…ガストロが千葉君『だと思った人形』を撃った音。
……じゃあ2発目は?
「フ、ヘヘ」
……本物の千葉君の銃声音だ。
「へへへ外したな、これで2人目も場所が…」
そう言うガストロの声が途切れた。
けたたましい轟音と共に、ガストロに吊り照明が落ちてくる。後ろから照明に当たったガストロは、前にあったパイプの柱にしたたか体を打ち付けた。
「く…そが…」
それでもブルブル震える手で、撃った千葉君を狙おうとすると、またもう一発銃声がした。
今度はガストロの手にある銃に向けて。