第28章 沖縄旅行は海の香り
……そして1時間後。
「…死んだ。もう先生死にました。あんなの知られてもう生きていけません」
屍というかなんというか。消耗しきった殺せんせーがそこにいた。これを最後まで見るのが条件なわけで、動くにも動けなかったらしい。
『さて、秘蔵映像にお付き合い頂いたが、何かお気付きでないだろうか、殺せんせー?』
完、と書いてある映像から三村くんの声が流れ出し、殺せんせーはその声でようやく気がついたようだ。
自分の足元に、満潮の水が来ていることに。
私は小屋からそっと外に出て、耳を澄ませる。
「俺等まだなんにもしてねぇぜ。誰かが小屋の支柱を短くでもしたんだろ」
撃つ権利を持った7人が立ち上がる音が聞こえる。
「船に酔って、恥ずかしい思いして、海水吸って、だいぶ動きがにぶってきたよね」
「さあ本番だ。約束だ、避けんなよ」
その直後、銃声音が私の耳にとどいた。
続いて殺せんせーの苦しそうな声と…
小屋が崩壊する音。
間髪あけずに水が跳ね上がり、殺せんせーを覆った。
E組でもトップの身体能力を持つ人が水圧で空を飛ぶフライボードで水圧の檻を作ったからだ。
外では倉橋さんがイルカを操り、下から逃げられないように跳ねさせる。フライボードに乗ってない人はホースを引っ張って水の檻をより強固なものに。銃が得意な人は……
『射撃を開始します。照準・殺せんせーの周囲全周1m』
『当たる』攻撃に敏感な殺せんせーの性格を活かし、一斉射撃は殺せんせーの周りを狙う。
水、そして銃弾の檻の完成だ。かくなる私も銃を手に、殺せんせーに当たらないように慎重に連射する。そしてとどめは……
背後で微かに何かが這い上がる水の音が聞こえた。
そう、千葉くんと凛香…の2人だ。
鼻がいい殺せんせーのために、陸には2人の匂いが染み込んだダミーを置いて、2人には暗殺実行中は海の中にいてもらう。唯一小屋と繋がっている陸の方を、殺せんせーは何度も気にしていた。……でも今は違う。小屋はないけど、新たに作った水圧の檻と銃弾の幕で狙撃点を殺せんせーが意識していた方とは別の場所へ。
匂いも、銃を発砲する音も、ましてや視界さえ。水が全部消してくれるんだから……!
私は2人が準備し終わったのが確認出来てもずっと撃ち続けた。
……私の、最後の暗殺。