第28章 沖縄旅行は海の香り
……このトロピカルジュースが、これからの3日間を左右する……!!
「いやー最高!!」
「景色全部が鮮やかで明るいな〜」
「ホテルから直行でビーチに行けるんですね、様々なレジャーも用意してあるようですねぇ」
殺せんせーはビキニで騒ぐ適齢年齢の女性を眺めている……生徒の前でも遠慮ないな、この人。
…皆はそんな殺せんせーの言葉に紛れてトロピカルジュースを啜っている。
「例のアレは夕飯の後にやるからさ、まずは遊ぼうぜ殺せんせー!」
「修学旅行ん時みたく判別行動でさ」
「ヌルフフフ、賛成です」
……言いたいよ。そのジュース、飲まないで、って。
……ダメなんだ。
この先にある楽しいことも、これから起こる辛いことも言えない。…苦しいし、悲しい。
でもこれを乗り越えた先にある物が、皆にとってかけがえのない物になる事もわかってる。……かといって……。
「……」
私は自分の手元に配られたトロピカルジュースを見た。
飲めない……。
私はこのジュースを飲めない。怖いし……自分勝手なのは分かってる。
「京香さん? 飲まないの?」
同じ班の神崎さんが心配そうに覗き込む。
「あ、あは……」
「飲まないなら杉野君とかに飲んでもらっても……」
「なになに神崎さん!!」
神崎さんから『杉野』のワードが出て僅か数秒で杉野君が遠くから駆けつけた。
「い、いやいやいや!! 私トロピカルジュース大好きだよ!! ただ飲む気にならないの! 返してくる!!」
ガタッと立ち上がると、カルマ君にパシ、と手を止められた。
「えー、このジュース結構美味しかったけどな。俺に頂戴よ」
これ飲んで何かあったら(ってかあるんだけど)どうするんだ!!!
「もう! ワガママなんて聞かないよ!!」
私はそのままの勢いでカウンターにジュースを突き返した。
「よろしいのですか?」
先ほどの男の人がこちらを訝しげに見る。
……後で、戦うハメになるこの人を。
「いらないです。飲みたくないんで」
「……承知致しました」
恭しく頭を下げるこの人。……オーラが、少し違う気がする。
私は小さく息を吐いて皆の方に戻った。
「よく遊び、よく殺す。それでこその、暗殺教室の夏休みです」
帰ってくると殺せんせー名言を言っていた。二カリと笑ったその笑顔を、私は席について眺めた。