第27章 夏の一時
翌日……。
「イリーナ先生。今日夜流しそうめんするけど、昼空いてる?」
どうやら流しそうめんはいつやるのかとソワソワしていたらしくイリーナ先生から電話がかかってきた。
『え? どこについてけばいいのよ』
「それは後で伝えるから、とりあえず駅でいいかな?」
『…まあ夏休みだし暇だからいいけどね』
「ほんと!? じゃあ10時駅前ね!」
『えっあんた私の化粧する時間考えて』
最後の言葉は聞かなかったことにしてブツっと電話を切る。
さて、私も荷物準備しよーっと。
10時椚ヶ丘駅前。
文句を言いつつもイリーナ先生はきっちり準備をしていた。
「あら京香、遅いわよ」
さながらハリウッドスターだ。
流石ハニートラッパー。相手の機嫌を損ねないように早めに来る癖がついているらしい。
「と言っても少し遅れて焦らさせるのもありよ、あまり遅いと嫌われるけど」
イリーナ先生の豆知識だ。
「で、今日はどこ行くっていうのよ」
「それがね……」
と私の前の最寄り駅を言う。
「……聞いたことないわね、田舎?」
「いや、あるかもわかんない」
「はぁ!?」
そう、あるかもわからないんだ。だから……
「イリーナ先生さ、とりあえず駅員さんに聞いてみてくれる?」
「な、なんで私が!?」
「イリーナ先生のハニートラップ技術も学びたいからね」
イリーナ先生はうーん…と悩んだ後、
「いいわ、私についてきなさい!」
……ノリノリだな。
「ね〜ぇ、そこのお兄さぁん?」
駅員さんに甘ったるい声でモーションをかける。
「は、はい」
「この駅、知ってる?」
サラサラと手元のメモ帳に書き連ね、ウィンク付でそれを渡す。
「あ、ああ…この駅なら乗り換え一駅…いや、なしでもいけますよ」
「あらそお? ありがとう〜!」
イリーナ先生はさり気なく駅員さんの手を取りニッコリと笑った。
たたたっとこちらに帰ってくる。
「どう? 京香」
「流石だね……駅員さんまだこっち見てるよ」
「フフ、罪な女ね、私って」
ペラペラの日本語に見合わぬ金髪。それをサラリと流せば何人もの男が振り返る。
「さ、行くわよ」
イリーナ先生がヒールをカッと鳴らして歩いていく後を私はついていった。