第27章 夏の一時
「じゃ! ケーキ食べるか!」
前原が買ってきたケーキは四角く切れるケーキだ。
「ここから切ればいい?」
「うちのクラス何人だっけー?」
「律抜いて27!!」
「私もケーキ食べたいです…」
「だって律頑張れば自分で作れるじゃん!!」
「私も食べたいですねぇ」
当然のように紛れてきたその声に、皆はクルリと振り向いた。
「こ、殺せんせー!?」
「いやあ皆さん。私が北極に行っている間に何楽しそうなことやってるんですか! 先生も混ぜて!!」
「ケーキはやらん!!」
「えええ!?」
わあわあとより騒がしくなり、教室内に殺せんせーとケーキが飛び交う。
私は端っこにいってチョコケーキをパクリと食べた。
「……うま!」
「京香! これ『プチパリ』のチョコケーキだよ! 朝早く行かないと売り切れちゃうやつ!」
流石クラスでも随一のスウィーツ通茅野ちゃん。最も本人はプリンが1番らしいけど、プリンを買うついでにケーキも買うから詳しいんだとか。
「『プチパリ』か……」
そういえば私の世界にもそんなケーキ屋があったような…?
「……」
椚ヶ丘中学校は東京の西にある都会ながらも緑豊かな街だ。
だけど、私の世界にはなかった。
反対にどちらにもあったものもある。
……東京タワーやスカイツリー、京都の清水寺や五重塔……。
私の学校はこちらになかった。ここから電車で大体1時間位の……
「……!」
なら、私の最寄り駅はどうなんだろう?
私の家は? 私の通学路は? 私の志望校は?
……全部が無くなってる訳じゃ、ないのかも……。
私はケーキを食べる手を止めた。
幸い今は夏休み。
しかも日帰りで行ける距離だ。
……明日、行く? でも、明日は烏間先生とイリーナ先生と流しそうめんの予定なんだけど……。
早めに出て早めに帰ってくれば間に合うかな。そしたらイリーナ先生にもついてきてもらって……。
「京香? 生クリームもらっちゃうよ?」
ハッと思考が戻ったのは茅野ちゃんの声だ。
「だっダメダメ!! 私食べかけだもん」
「チェッ、貰えると思ったのにー」
慌ててケーキを食べおえ、殺せんせーの方を見るとケーキをちゃっかり頂いたらしい。こちらをニコニコして見ていた。
その後2時間くらい談笑して、皆は家へ帰っていった。
「あれ、鍵は?」
最後に残ったのは木村君と私。