第27章 夏の一時
彼女の雰囲気は少し儚く、触ったら消えてしまいそうな程脆い。何というか……言い方は悪いが『異質感』と言うのだろうか。周りの空気すらもこの場のものではないような、そんな雰囲気を纏っている。
「カラスマ、別に私は話せとは言っていない。ただ……」
「ただ?」
ロヴロはすっと目を細めて上を見た。
「秘密というのは……長引けば長引くほど辛くなる。職業柄秘密を抱えることも多々あったが、それは慣れだ。彼女はまだ慣れているようには見えない。
それに、日本の他の学校とは違うと思うが……それでもここは日本で、平和なのだ。中学生の少女に大きい秘密は、あの怪物位でいっぱいいっぱいだろう」
「……そうだな」
「まあ、彼女はカラスマに分かってもらっているから少し楽かもしれないな。その立場の者でしか分からない辛さは…他人に分かってもらえない事の方が多い」
立場のものでしか分からない辛さ、か。
「カラスマもそうだろう。現場にいる上の者として……秘密も多いのではないか?」
「………まあ、な」
ロヴロからさっと差し出されたスポーツドリンクの蓋を開け、一気にあおる。
「頑張りたまえ、ミスター烏間。呼ばれればいつでも来る」
ロヴロはニヒルに笑い、その場をあとにした。
「……プロの暗殺に関わる者など、話すとろくなことがないな」
まさか俺の独特な立場についてもこの短時間で読み取っていたとは。
「……」
彼らの暗殺は成功するだろうか。
……そういえば、約束のパーティまだしてないな。夏休み中にしないと怒られてしまいそうだ。
……俺も帰ろう。
少しむしゃくしゃした気持ちを奥にやり込め、俺も校舎に背を向けた。