第27章 夏の一時
竹林くんの個人レッスンが終わった頃を見計らって、少し遠いところにいた渚君がロヴロさんに近づくのが見えた。
「ロヴロさん」
「…!」
ロヴロさんが瞬時に渚君の暗殺能力を見抜くシーンだ……!
「僕が知ってるプロの殺し屋って…今のところビッチ先生とあなたしかいないんですが。ロヴロさんが知ってる中で…一番優れた殺し屋ってどんな人ですか?」
渚君も案外ストレートだよな……。
そんな渚君の様子を見て、ロヴロさんは嬉しそうに笑った。
「興味があるのか、殺し屋の世界に」
「あ、い、いや、そういう訳では」
アワアワする渚君を見つつロヴロさんの話は続く。
「そうだな…俺が斡旋する殺し屋の中に『それ』はいない。最高の殺し屋。そう呼べるのはこの地球上にたった1人」
イリーナ先生は自分が一番と言われなくて少し悔しそうだ。渚君なロヴロさんの目をまっすぐ見つめてただそれを聞いていた。
「この業界にはよくある事だが…彼の本名は誰も知らない。ただ一言の仇名で呼ばれている。
曰く、『死神』と」
……死、神……。
ロヴロさんの言葉は、実際に聞くとかなり重く感じた。ずっしりと胸に残るような……それでいてふわりと消えそうな。
私の周りで何人か聞いている人もいるようだけど、訓練に集中していて聞いてない人も多い。それをいい事にロヴロさんはまた続けた。
「ありふれた仇名だろう? だが。死を扱う我々の業界で、『死神』と言えば唯一絶対奴を指す。
神出鬼没、冷酷無比。夥しい数の屍を積み上げ、死そのものと呼ばれるに至った男。
君達がこのまま殺しあぐねているのなら…いつかは奴が姿を現すだろう。ひょっとすると今でも…じっと機会を窺ってるかもしれないな」
ロヴロさんの言葉に思わず鳥肌がたつ。思い切って周りの木を見渡すも、そこにあるのは青々とした緑色の葉っぱだけ……。
いや、私がそう思いたいだけかもしれない。この中に、カメラや盗聴器が隠れていても……私には分からない。
「……では少年よ、君には『必殺技』を授けてやろう」
「!? ひっさつ…?」
「そうだ、プロの殺し屋が直接教える…『必殺技』だ」
ゆらり、と空気が禍々しく揺れた気がした。
ロヴロさんと渚君はそのまま少し遠いところにいって、話は聞こえなくなった。
……必殺技。必ず殺す技、だ。